社内の業務を効率化したい。企業もこう考えています。業務上の無駄を省くことで、コスト削減と生産性向上が実現します。またテレワークやリモートワーク、外注といった働き方の変化により、ますます効率的な業務運用が今後必要になります。しかしながら従来の業務遂行を大きく変更し効率化するために、何をしたらいいのかわからない、またかかる労力を考えると腰が引けてしまうという企業も多いでしょう。この記事では次の項目について解説します。
- 業務改善のQCDとは
- 業務改善計画作成方法
- 業務改善の考え方
- 業務改善のための代表的なフレームワーク
- 代表的なツール
- 業務改善の事例
業務改善とは
業務改善とは、顧客が望む商品やサービスを生み出して提供する業務活動において、日常業務のフローや業務目的の無駄を見出し、効率的かつスムーズな流れを創り出すことです。わかりやすい例として、世界的に知られているトヨタ自動車の「カイゼン(Kaizen)」があります。英語で「改善」は「Improvement」ですが、もはや「Kaizen」で通用します。これは、主に製造業の現場業務を見直し、今より良くしていくための活動を指します。ムダ・ムリ・ムラをなくし、効率的に作業を行い、生産性を上げるために改善提案を行うのですが、この取り組みとしてQCDという言葉がよく用いられます。
- Q(Quality=品質):向上
- C(Cost=費用):削減
- D(Delivery=時間):短縮
品質・費用・時間をより良い状態にすることが業務改善の取り組みです。この3つは結びついているので、それぞれの要素全てを向上させることで大きな効果が期待できます。
QCDの具体例
消費者目線で見るQCDと、生産者目線のQCDには違いがあります。
【消費者の視点によるQCD】
Quality 品質:期待している品質が保たれている、不良品でない
Cost 価格:適正な価格か
Delivery 納入:期待する数量と納期で調達できるか
【生産者の視点によるQCD】
Quality 品質:設計時に設定した品質が保たれているか
Cost 価格:生産時の原価が適切価格を維持しているか
Delivery 納入:求められた数量と納期で生産・納入できるか
業務改善の対象と原則的な思考法
効果的な業務改善を行うには、ルーティン業務を改善対象とすることが取り組みやすく、しかも効果が得られやすいです。ルーティン業務とは、「毎月」「毎週」など、同期間に同じ業務を行うものを指します。例えば給与計算業務や月々の請求書発行業務などのデスクワークや、生産ラインの作業がそうです。このようなルーティン業務は比較的単純な定型業務で、高度な専門性は求められません。簡素化、システム化、特定の部署への集中化、マニュアル化などの改善策が取れます。
また改善を進める際、忘れてはならないのが、具体的な数字を意識した定量的思考方法です。業務改善を目指すために話し合うと、「業務効率改善を目指す」「無駄にかかっている顧客対応時間を削減する」といった定性的、抽象的な意見に留まりがちです。そうではなく、例えば、100人が20時間/月工数を削減すると300万円分の削減が得られるといった金額、人数、割合などの具体的な数字を盛り込み、定量的な思考と報告するシステムを導入することで効果的な改善策が生まれます。
生産性向上や経費削減との違い
「業務効率化」と似た意味で使われる言葉に「生産性向上」というものがあります。生産性向上はより少ない資源(リソース)で、高いアウトプットを得ることを指します。一方、業務効率化は「ムリ」、「ムダ」、「ムラ」を排除することで、リソースの投下量を減らしながら今までと同じ成果を出すことを意味します。業務効率化は生産性向上のための施策の一つと言えます。
経費削減はコストのみが対象です。会社であれば「家賃」や「通信費」「光熱費」などの経費がかかりますが、経費削減の方法は「より安い通信会社に乗り換える」「冷房の温度設定を28度に設定する」といったように、具体的な解決法が明確で、調べてその通りに行えば効果が得られます。一方、業務改善は経費だけでなく会社の全てのモノ・ヒト・コストまで広がり、効率的に滞らせずに遂行していくための解決方法策定と実行を指します。業務改善のポイントも業務改善方法も企業によって異なります。
業務改善のメリット
業務改善のメリットは主に2つあります。
コストの削減
「ムリ・ムダ・ムラ」を省くことで作業にかかる時間の削減に繋がり、残業時間などの人件費を削減できたり、生産性を向上させたりすることができます。改善を進めると、企業にとってコスト削減になるだけでなく、従業員にとっても働きやすい環境になり身体的な負担が軽減するというメリットがあります。また人的なリソースの関係で取り組めていなかった業務に着手することもできるようになり、新たな取り組みやチャレンジを行う余裕が生まれます。
特定業務の属人化の排除
業務改善では、業務フローの把握と整理を行い、マニュアル化します。デスクワークにありがちですが、それまで特定の人しかわからないまま行われていた業務のプロセスが明確になることで、問題点が明らかになると同時に誰でもできる業務となります。またDDXやRPA、ITツールの導入によるシステム化やアウトソーシングにも適します。
具体的な業務改善手順
業務上、次のような「ムリ」「ムラ」「ムダ」がないか精査し、あれば失くしていくのが業務改善です。
- ムリ:従業員が感じているムリを発見し、業務パフォーマンスを維持したり高められるよう環境を整える。
- ムラ:部門ごとの作業量、各従業員の能力、負担などを見極め、調整する。
- ムダ:不必要な業務をなくし、リソースを必要な業務に注力する。
そのため、業務改善は、業務の見える化、取り組むべき課題の洗い出し、改善への取り組みという流れが基本です。
業務の書き出し
具体的な業務を書き出し、それぞれの業務がどれくらいの頻度で発生しているのか、また、どれくらいの処理時間がかかっているかも合わせてフォーマット化します。必要のないプロセスや、アウトソーシングするべき業務、時期ごとの業務量の偏りなどが判明します。
業務の優先順位を明確にし、効率化したい業務を決める
次に、書き出した業務に改善優先順位を付けます。すべての業務を効率化しようとすると、実現に膨大な時間が必要になります。そのため優先的に改善するべき業務を選びます。マニュアルを作成して業務のクオリティを均一化させたいのか、仕事のムダをなくし効率化させたいのか、担当者の配置を見直して平均的な業務スピードを上げたいのかなど、やりたいことが決まれば何をするべきかが見えてきます。
まとめられる業務を探す
日常の業務における無駄を洗い出せたら、それをどう変えるかを検討します。具体的には、次の処理のいずれかになります。
- やめる
- 簡素化
- システム化
- 集中化
- 標準化
- 移管
- 業務委託(アウトソーシング)
これらの改善案を検討する際は、費用、時間、手間といった改善の難易度と、改善の効果(コスト削減、時間短縮など)を比較することで最適解が得られます。
マニュアルで業務クオリティを均一にする
1人の古参、または優秀な社員がすべての業務をこなせたとしても、他の社員が同様の業務を行えない場合、企業や部署内の業務効率は悪い状態です。そこで重要なのが業務マニュアルの存在です。業務マニュアルというのは、社員の業務のクオリティをできる限り均一化するために作成されるものです。マニュアル作成は、業務のムダを発見する、担当者が交代する際にスムーズに引き継ぐことができるなどさまざまなメリットがあります。
- 業務のどこまでをマニュアル化するのか範囲の決定
- 構成案(目次)の作成
- 時系列順、担当者別に内容を整理
- 実際に運用し、修正点や課題を見つけて確認し修正
資料の規格統一
マニュアルや資料の規格は、定期的にバージョンアップされていくものです。しかしながらマニュアルがバラバラでは、各自が異なる知識を身に着けてしまいます。業務の効率化を目指すなら規格の統一が大切です。
業務改善を効果的に進め成功させるポイント
業務改善を効果的に進め成功させるためには、次のポイントが大切です。
極端なこだわりは捨てる
業務に対し高いクオリティを求めることは大切なことですが、過度のこだわりが業務効率を著しく落とすリスクもあります。こだわりが強くなり、業務に遅れが出ている場合は非常に問題です。求められているのは完璧かどうかではなく、依頼者の目的を達成することだという理解が必要です。
従業員のことも考える
業務の効率化は大切ですが、それだけが企業活動の全てではありません。効率化することで従業員にもたらす影響やその対策も考えるのが、企業の責任です。また、個人個人の適性や経験を無視した効率化は、かえって効率が悪くなります。業務改善を命令するのは大抵経営者や管理職ですが、現場の声に耳を傾けた業務改善を行い、現状を理解していない的外れな目標設定や、問題の本質を見誤った「解決策」を作らないことが重要です。また現場の従業員が「やらされている」感が強いと、業務改善は上手くいきません。その点でも、業務改善案策定の段階から上からの命令という形ではなく、現場の参加を促し、目的や目標を共有するべきです。
一気に全ての業務改善を行おうとしない
業務の効率化を真剣に考えれば、多くのアイデアが生まれてくるかもしれません。しかしながら、様々な改善策を一気に行おうとしないことが大切です。派手な変革はアグレッシブで成長に繋がるような気になってしまいますが、リソースやキャパシティが変わらないのに、あれもこれも手を出すと、どれも中途半端な結果に終わる可能性があります。自社の現状を正確に踏まえ、現実的なプランを確実に実行することが大切です。小さな改善から始めましょう。
ミスは責めるのでなくそこから学ぶ
仕事上、ゼロミスはありません。必ずどこかで何かしらのミスは起こります。完璧主義の追及は、ミスの隠蔽に繋がります。そして後に大きな損失や損害を引き起こします。大切なことはミスを絶対に起こさないことではなく、起きたミスをどう処理するか、また致命的なミスの発生をどう防ぐかです。この意識が浸透すれば、ミスの正直な報告、ミスが起きた時の対応、再発防止という流れになり、ミスは単なるミスではなく、フィードバックとして今後に活かせる経験になります。
業務改善の代表的なフレームワー4選
スムーズな業務改善を行うためには、フレームワークを利用することをおすすめします。ここでは、特に代表的な4つのフレームワークをご紹介します。
QCD
Q:Quality(品質)
C:Cost(費用)
D:Delivery(納期)
QCDは一般的に製造業で使われるフレームワークですが、企業の業務改善においても有用です。企業ではより良い商品・サービスを、より低いコストで、希望の納期でお届けすることが出来るように、改善が進められます。しかし一方で、ある項目の徹底改善は別の項目にマイナスの影響を与えることがあります。全体のバランスが取れている状態を目指すことが目標です。
ECRS(イクルス)
E:Eliminate(排除):不必要な業務や工程がないか
C:Combine(結合):複数の部署にまたがっていたり冗長な工程を要する業務を、シンプルにまとめられないか
R:Rearrange(交換):既存の業務や工程をより効率的に変更
S:Simplify(簡素化):複雑な業務や工程をより効率化・簡素化
PDCAサイクル
P:Plan(計画):目標達成を見据えて具体的な値を用いた計画を立てる
D:Do(実行):計画に沿って業務を実行し、記録
C:Check(確認):記録を分析し、業務改善がどの程度機能しているか評価
A:Action(改善):改善すべき点を改善し、良い点は継続できるよう、計画を改良
KPT
K:Keep(継続):改善内容のうち上手く機能していて今後も継続していきたい要素は、Keep
P:Problem(改善の必要な問題):まだ改善が必要な要素はProblemとしてもう一度見直す
T:Try(実践):KPを踏まえ、これから新たに実行したい業務改善にTry
おすすめツール
業務効率化に、ツールの導入は非常に効果的です。多種多様なツールがありますが、ツール選びのポイントは次の2つです。
- 現在抱える課題を解決できるツールか
- 自分の組織を構成するメンバーにとって使いやすいか(ITリテラシー等の面で)
代表的なツールには次のようなものがあります。
- メモ機能
- スクリーンショット機能
- オンラインストレージサービス:
- タスク・プロジェクト管理サービス
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、ソフウェアロボット、仮想知的労働者):PC上で行う業務を自動化できる
- コミュニケーションチャットツール:Slack、Chatworkなど
- オンライン会議サービス:Google Meet、Zoomなど
- 勤怠管理ツール
- クラウド型マニュアルサービス
- SFA:見込み顧客への営業アプローチ進捗管理や行動最適化を目的にした営業活動支援ツール
- CRM:顧客管理・分析データベース
業務改善における注意点
業務改善は、組織の生産性を向上させ、顧客満足度を高め、経営効率を改善するための重要な施策です。しかし、適切な計画や実行が行われない場合、業務改善が逆効果になることもあります。ここでは、業務改善における注意点について詳しく説明します。
- 全体最適を考慮する
業務改善を実行する前に、改善の目的と計画を明確にし、全体最適を考慮することが重要です。ある部署の業務改善が、他の部署や全体の業務プロセスに悪影響を与える可能性があるため、改善が全体最適に対応するように慎重に検討する必要があります。
- 従業員の協力を得る
業務改善を成功させるためには、従業員の協力が必要です。改善の計画や目的を、従業員に十分説明することが重要です。また、従業員の意見やフィードバックを収集することで、改善のアイデアを生み出すことができます。
- システムを改善する
業務改善を実行するためには、適切なシステムを導入することが必要です。例えば、業務プロセスを自動化することで、作業時間を短縮することができます。また、生産性を向上させるために、データ分析や人工知能技術を活用することもできます。
- モニタリングとフィードバック
業務改善を実行した後も、改善の成果をモニタリングし、継続的にフィードバックを行うことが必要です。改善の成果を評価することで、業務改善の効果を最大化することができます。また、継続的なフィードバックを行うことで、今後の改善の方向性を検討することもできます。
業務改善の事例
熊平製作所
電子化・ペーパーレス化による人件費の削減を行ったのが、金融機関向けの金庫設備からビルの入退室管理システム、セキュリティゲートなど、トータルセキュリティシステムを開発・製造している熊平製作所です。800種類以上もの製品の検査記録を紙で保管していましたが、電子帳票ソリューション『i-Reporter』を導入し電子化しました。これにより、記録の準備から保管までの時間は96.5%短縮、検索に要する時間は99.2%短縮しました。
船井総研ホールディングス
テレビ会議の導入による出張コストの削減を行ったのは、経営コンサルティング事業の船井総研ホールディングスおよび船井総研グループです。大人数の全体会議でもテレビ会議システムを活用するため、それまでの無料WEB会議ツールから高品質なPolycom製のテレビ会議システムを導入、800名規模の全体会議にも活用し、年間数千万円の出張コスト削減を試算しています。
まとめ
正しいフローやポイントを抑えれば、小さな改善提案が、企業の業務効率を著しく改善することも多々あります。この記事では、業務改善について下記の項目を取り上げました。
- 業務改善のQCDとは
- 業務改善計画作成方法
- 業務改善の考え方
- 業務改善のための代表的なフレームワーク
- 代表的なツール
- 業務改善の事例
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