経営ビジョンを策定するメリット、作り方、事例、そして経営理念との関係は

今回は経営ビジョンについて取り上げます。経営ビジョンの策定、提示、従業員への浸透は、企業が経営理念を実現する過程において非常に有用な手法です。経営ビジョンについて次の項目を解説します。

  • 経営ビジョンとは
  • 経営理念とのちがい
  • 経営ビジョンを作るメリット
  • 経営ビジョンの作り方
  • 従業員に効果的に浸透させるには
  • 経営ビジョンの事例
目次

経営ビジョンとは

経営ビジョンとは、企業が掲げる目標である経営理念に基づいて、達成に向かって進むための方向性、将来像を文章にまとめたものをいいます。一般的には経営理念に基づいて策定されますが、 一度確立したら長期的に大きく変わることのない経営理念と対照的に、経営ビジョンは具体的な期限を区切って策定され、業績や市場の状況などに応じて変更されます。経営ビジョンは1つではなく複数を同時に策定することもできます。

経営理念とのちがい

経営理念とは、経営ビジョンの進行方向にある最終的な目的や企業使命を指します。企業の価値観や考え方、社会における存在意義などで、「何故、起業するのか」というテーゼに等しく、確立したら大きく変わらない継続的なものです。例としてイオンモールの経営理念と経営ビジョンをご紹介しましょう。

【イオンモールの経営理念】

イオンモールは、地域とともに「暮らしの未来」をつくるLife Design Developerです。

【同社の経営ビジョン】

アジア50億人の心を動かす企業へ

  • 私たちは、パートナーとともに、地域の魅力を磨きつづける究極のローカライズに挑戦します。
  • 私たちは、一人ひとりがLife Design Producerとして、商業施設の枠組みを越え、新たな「暮らし」を創造する事業領域を拓き、成長し続けます。
  • 私たちは、世界中の拠点をはじめとする全ての資産を活かし、永続的に発展することで、強い財務体質と強固な事業基盤を構築します。
  • 私たちは、革新し続けるプロフェッショナル集団です。
  • 私たちは、お客様に徹底して寄り添い、生涯わすれえない思い出となる最良の体験を共有します。

このように、ひとつの経営理念に対して、複数の経営ビジョンを策定することができます

経営方針、経営計画、経営目標とはどう違うのか

さらに、経営方針、経営計画、経営目標という言葉もあります。それぞれどういう意味なのか確認しておきましょう。

経営方針:経営方針と経営ビジョンの違いを一言でいうと、経営方針とは「方向性」であり「経営ビジョン」は「望む未来像」です。経営方針とは、経営を進めていく上での「ポリシー」だと言えます。例えば「無借金経営」、「グローバル採用」、「有機野菜のみ使用」といったもので、「こだわり」と言い換えることができるかもしれません。

経営計画:経営計画とは、事業を振り返り、今後の一定期間における事業をどう行えば経営ビジョンの達成に繋がるか、その道筋を明らかにすることです。

経営目標:経営目標とは、経営ビジョンがやや抽象的な願いを表すのに対し、数字や機嫌などより具体的、客観的な指標です。

経営ビジョンの役割、作成するメリット

経営理念に沿って作成された経営ビジョン=企業の将来像の受け手は、従業員・顧客・社会の三者です。それぞれに対して企業の将来像を提示するとどのようなメリットが得られるでしょうか。

経営ビジョンを従業員に示すことで得られるメリット
企業が経営ビジョンを示すことで、組織全体が理想の将来像を共有できます。また経営ビジョンは全体の行動規範や従業員ひとりひとりの判断基準の軸となり、組織の一体感や士気を高めることに繋がります。フランチャイズのように拡大化する企業などでは、経営方針の統一のため、特にこの経営ビジョンの浸透が大切です。

経営ビジョンを顧客に示すことで得られるメリット
顧客に経営ビジョンを提示すると、企業への信頼性や企業イメージがアップします。このようなサービスや商品購入の先にある将来的、間接的なベネフィットも、顧客の満足度を高めます。

経営ビジョンを社会に示すことで得られるメリット
社会に経営ビジョンを提示すると、企業の社会的信頼が高まり、経営ビジョンに共感・賛同する新たな顧客層の獲得、人材の採用に繋がります。

その他のメリット
上記の三者に加え、次の二者からのメリットも見逃せません。

投資家からのメリット
企業の中長期的な経営目標である経営ビジョンは、意思表明であり経営指針でもあります。経営ビジョンを策定することで投資家に対し説得力の高い経営方針を提案でき、信頼を勝ち取ることができます。

人材確保面でのメリット
企業にとって自社にマッチした優秀な人材の獲得は、非常に重要です。求職者は自分の望むキャリアを構築するため、企業を選別します。その際、企業のビジョンが判断材料の一部となります。また企業も、自社が求めている人材を採用するために、自社の考え方や価値観、方向性などを明示することが大切です。もし企業に経営ビジョンがなければ、求職者は給与や福利厚生といった条件面でしか会社選びの判断をすることができません。

どう作るのか、経営ビジョンの作り方

次に、作成時に注意するべきポイントをご紹介します。

経営理念からブレない

経営理念というゴールに向かう過程が経営ビジョンです。ですから経営ビジョンを基準として考えなければなりません。経営理念と矛盾している内容では、一貫性がなくなってしまいます。

数字や成果ばかり強調しない

数字目標や成果目標がいけないわけではありません。しかしながらそればかりでは営利目的以外のなにものでもないという印象になり、共感が得にくくなります。社会の中で果たす役割や価値を打ち出す方が多くの人に良い印象を与えます。

完結にわかりやすく

一部の人だけに向けた閉じたメッセージは、経営ビジョンに相応しくありません。誰が見ても分かりやすい言葉や文章にしましょう。専門用語の多用は、一般人には読みづらいです。

目標は高過ぎず低過ぎず

実現可能なビジョンを作成することが大事です。不可能な目標を立てても、従業員のモチベーションは上がりません。一方、目標があまりに低いものでは、立てる意味がありません。頑張って少し無理をすれば到達できるレベルにすることが大切です。

経営ビジョン策定の流れ

経営ビジョンの作り方は次の流れになります。

自社を取り巻く現在の状況分析

まずは環境分析を行っていきます。自社の将来は周りの環境の影響で変化していくので、ビジョンを描く際にもそれらを含め分析し考える必要があります。市場の環境分析には、次の例のようにさまざまなフレームワークがあります。

  • 5フォース:競合他社や業界全体の状況と収益構造を明らかにし、その中で自社はどうすれば利益を上げることができるか分析する。
  • 3C:市場・顧客、競合、自社の3つのCから企業を取り巻く環境を明らかにし、今後の経営戦略を導き出す。
  • PEST分析:政治、経済、社会、技術の4つの外部要因の影響を把握、予測し、競合と比較して強み・弱みを分析して事業戦略の改善策を探る。

分析結果と照らし合わせ未来を予想する

環境分析の結果に加え、普段から次のような情報を収集します。

  • シンクタンクや戦略コンサルティングファーム、メディア、リサーチ会社などから発信される世界や日本の情勢や経済の予測、市場の動向、この先予定されている主なイベントなどの情報
  • メディアのオピニオンリーダーが語る事例や意見

こういったものを参考にしながら、未来を予想します。

将来の社会課題やニーズを予想する

自社の事業領域の将来を予測する時には、ターゲット層のニーズと需要、社会的課題を考えます。5年までの中期であればある程度具体的に考えられると思われますが、例えば10年後のイメージとなると曖昧になってしまうでしょう。それでもできるだけ可能性について予測することが大切です。

自社の使命や役割を考える

未来を予測し、市場や顧客のニーズを予想したら、自社はそこでどのような役割を果たし何を提供できるかについて考えます。

経営ビジョンの言語化

経営ビジョンの大枠が出来上がったら、次に「皆に伝わる」ように言語化する作業に入ります。わかりやすくユニークな表現で、読んだ人が正しくイメージでき共感できる経営ビジョンが理想です。

従業員の意見を聞く

従業員にとって、経営ビジョンは行動指針です。そのため、従業員が納得できないものや共感できないものは、経営ビジョンとして片手落ちだと言わざるを得ません。また経営ビジョンの目的が、モチベーションの向上や一体感であることから、心が躍り前向きな気持ちになれるものが望ましいです。

経営ビジョンの達成方法

ビジョンは、企業が目指す将来像を示したものです。ビジョンを達成するためには、具体的な目標や戦略が必要となります。以下に、経営ビジョンを達成するための方法をいくつかご紹介いたします。

ターゲットを設定する

ビジョンを達成するためには、具体的なターゲットを設定することが重要です。例えば、ビジョンが「業界トップクラスの企業になること」としている場合、その達成に向けて「市場シェアの拡大」や「新規事業の立ち上げ」などのターゲットを設定し、それを達成するための具体的な戦略を策定します。

ステップアップ戦略を立てる

ビジョンの達成には時間がかかることが多いため、ステップアップ戦略を立てることが重要です。ビジョンを達成するための中間目標を設定し、段階的に目標を達成していくことで、ビジョン達成に向けた成果を確実に出していくことができます。

組織全体の共感を得る

ビジョンを達成するためには、組織全体の共感を得ることが必要です。ビジョンに共感し、それに向けた行動をとることで、ビジョン達成に向けた取り組みが加速されます。組織の全員がビジョンを理解し、共有することが大切です。

PDCAサイクルを回す

PDCAサイクルを回すことで、ビジョン達成に向けた計画の立案から実行、評価、改善を繰り返すことができます。PDCAサイクルを回すことで、ビジョンを実現するための戦略の改善や目標の修正を行い、ビジョン達成に向けた進捗を確認することができます。

社員に浸透させる方法の具体例

策定した経営ビジョンに沿って経営管理や事業活動を行います。経営ビジョンは作るだけでは意味がありません。次のプロセスを経て、浸透させていく必要があります。

  1. 理解:経営者からのメッセージや、朝礼で、経営ビジョンについて従業員に伝え、経営ビジョンの存在の認知・理解を深める
  2. 共感:イメージしやすい形で伝え、共感を促す
  3. 具体化:経営ビジョンを従業員の評価項目・評価指標に具体的に取り入れる
  4. 実践:評価項目・評価指標に向かって行動し経営ビジョンを達成する
  5. 協働:社内の協働意識を高める

経営ビジョンの事例

日本を代表する企業の経営ビジョンをご紹介します。

トヨタ

可動性を社会の可能性に変える

ANA(全日本空輸)

ANAグループは、お客様満足と価値創造で世界のリーディングエアライングループを目指します

ソフトバンク

「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指して

ローソン

目指すは、マチの”ほっと”ステーション。

LION

次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ

サッポロホールディングス

サッポログループは世界に広がる『酒』『食』『飲』で個性かがやくブランドカンパニーを目指します。

ファーストリテイリング

服のチカラを、社会のチカラに

日本電産

1. 企業とは社会の公器であることを忘れることなく経営にあたる。
2. 自らの力で技術開発を行い、自らの力でつくり、自らの力でセールスする独自性のある企業であること。
3. 世界に通用する商品づくりに全力をあげ、世界の市場で世界の企業と競争する。

まとめ

原則、創業時から変わらないのが経営理念ですが、その経営理念の目的を実現するため、社会の変化や企業の状態を分析した上で策定されるのが経営ビジョンとなります。経営ビジョンは、従業員の一体化やモチベーション向上、顧客や社会に対する企業イメージの向上といった効果があります。

この記事で取り上げた内容は下記の通りです。

  • 経営ビジョンとは
  • 経営理念とのちがい
  • 経営ビジョンを作るメリット
  • 経営ビジョンの作り方
  • 従業員に効果的に浸透させるには
  • 経営ビジョンの事例
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