人材育成における主要な課題と克服のための戦略

企業にとって人材育成は重要です。とりわけ少子高齢化が深刻な日本においては、優秀な人材の確保と部下育成は急務です。ところが人材育成に課題や限界があると感じている企業は、少なくありません。この記事では人材育成の現状と課題、そして解決策について、次の点に着目し解説します。

  • 人材育成の現状と課題         
  • 人材育成目標を立てる時の3つのポイント         
  • 企業ができる育成課題解決        
  • 人材育成の課題を解決する手法
目次

人材育成の現状と課題

「平成30年版 労働経済の分析」によると、企業が考える「自社の人材育成における課題」は次の通りです。この数字を見れば、多くの企業で人材育成を行う環境が整っていないことがわかります。

  1. 日常の業務が多忙で、人材育成に充てる時間を確保できない 53.5%         
  2. 上長等、育成する側の育成能力や指導意識が不足している 45.4%
  3. 従業員が能力開発に取り組むため不在にする間、他の人が業務を代替できる体制がない 39.5%         
  4. 人材育成を受ける従業員側の意欲が低い 39.1%         
  5. 社内で人材育成を行う雰囲気がない 30.4%

人材育成に充てる時間がない

日々の業務に追われ、人材育成まで手が回らないと主張する現場や企業は少なくありません。原因は、育成担当者が通常業務と育成指導を同時進行しなければならない点にあります。こうなると通常業務が忙しく余裕がない時は、育成指導は後回しになります。繰り返し後回しにすれば、育成対象者のモチベーションは低下します。予定通りに必要な育成指導を行えるよう、会社側や管理職が育成担当の業務量を調整する必要があります。

育成側の育成スキルや意識が低い

計画やスケジュールを管理するスキル、習熟度を客観的に分析するスキルなど、育成側のスキルや意識が低ければ、効果の薄い指導になってしまいます。これは育成側が自分の担当業務に優れた能力を持っていても、育成スキルが低ければ起こります。また育成は本来の自分の業務ではない、成績につながらないといったように人材育成を軽視する管理職も存在します。これでは本当に効果のある人材育成は期待できません。まず最初に育成側が人材育成の重要性を理解する必要があります。

社内の協力体制が不十分

部署内に人材育成に対する理解がなく、また協力体制が不十分な場合も、人材育成を阻む原因になります。育成者も育成対象者も現場を離れ研修などに参加するには、その分の業務を他の社員が埋める必要があります。快く送り出せないのが、人手不足によるものか、部署内の雰囲気によるものか、あるいは人材育成に対する意識が低いためかをまず見極める必要があります。人手が足りない状況下で繰り返される研修は、現場の士気を下げ、育成や会社に対する反感を煽る可能性があります。会社組織は育成義務や協力要請を伝えるだけでなく、現場の状況を把握し、無理のない育成計画を立てたり、人員の調整を行うなど現場に寄り添う姿勢も必要です。

育成される社員の意欲が低い

「社員が自主性に欠けていたり育成に関してネガティブで、学ぶ意欲が低い」というケースもあります。育成される社員に学ぶ意欲がなければ、人材育成の施策を実施しても効果は得られません。 しかしながら社員側にしてみれば、育成の目的を正しく理解し、自分の未来像をしっかりイメージできて初めて前向きに取り組むことができます。

このように人材育成の目的と重要性を伝える努力が大切ですが、現実にはどの組織でも、働きアリの法則「組織はよく働く2割と、普通の働きをする6割、怠ける2割の人たちで構成されている」が当てはまることが多く、一定の働きかけをしても一部の対象者には功を奏さない場合は、割り切っていくことも考えられます。

社内で人材育成を行う雰囲気がない

企業によっては、成果主義の真逆をいく完全年功序列や、スキルや提案が全く評価されないといった硬直状態が見られることがあります。このような環境では、人材は育つことができません。人材を育て、会社を成長させるには、社員の努力や貢献を客観的に評価する人事制度や学びの支援といった企業側の努力による環境づくりも必要です。

また研修や育成の効果は短期的に数値に現れることは少なく、そのため価値を感じられずうやむやになり継続されないケースがあります。人材育成は長期的に行うものであり、数値化しにくいものであるという理解が必要です。人事育成の成果を測る時には、数字ではなく、言動に着目するなど評価する側のスキルも重要です。

重大な課題

人材育成においては、さまざまな課題が存在し、それらを克服するための戦略が求められます。適切なスキルマッチング、学習環境の整備、リーダーシップ開発、モチベーション向上、キャリア開発など、重要な課題について掘り下げ、実践的な戦略を紹介します。読者は自己の組織やチームの課題を特定し、成果を最大化するための手段を見つけることができるでしょう。

スキルマッチングの課題

スキルマッチングにおける主な課題は、以下のようなものがあります。まず、適切なスキル評価の欠如です。従業員の実力や能力を正確に評価し、それに基づいて適切なポジションや役割を割り当てることが困難です。さらに、変化の激しいビジネス環境では、必要なスキルセットが変わることがあります。従業員のスキルを最新に保ち、ビジネスニーズに適応させることも課題となります。また、スキルの可視性やアクセス性の問題もあります。従業員のスキル情報が不透明で、組織内でのスキルのマッチングが困難になることがあります。これらの課題を克服するためには、明確なスキルマップの策定や評価ツールの導入、スキルの可視化・共有の促進などが重要です。

学習環境の課題

学習環境における主な課題は、以下のようなものがあります。まず、個別の学習ニーズに合わせたカスタマイズが困難なことです。従業員のスキルや興味に応じた学習プログラムやコンテンツの提供が十分に行われていない場合、効果的な学習を促進することが難しくなります。また、学習の継続性の課題もあります。一度の研修やトレーニングだけでは十分な成果を上げることは難しいため、学習の継続や定期的なフォローアップが求められます。さらに、学習の評価や効果測定の課題もあります。学習の成果や効果を適切に評価し、改善策を立てるためのデータや指標が不足している場合、学習環境の改善が進みにくくなります。これらの課題を解決するためには、個別化された学習プランやコンテンツの提供、学習の継続性の確保、評価や効果測定のための適切なデータ収集などが重要です

リーダーシップの課題

リーダーシップの課題には、意思決定の困難さやリーダーとしての責任の重さがあります。リーダーは組織やチームの方向性を決定し、メンバーを導く役割を担っていますが、常に正しい判断を下すことは難しいです。また、リーダーシップの課題にはコミュニケーションの課題もあります。情報の伝達や意思疎通がスムーズに行われないと、メンバーとの連携や協力が困難になります。さらに、リーダーは多様なメンバーをまとめなければならないため、個々のニーズや意見のバランスを取ることも求められます。これらの課題に対処するためには、リーダーシップスキルの開発やコミュニケーション能力の向上が重要です。また、チームメンバーとの信頼関係の構築やフィードバックの提供なども必要です。

キャリア開発の課題

キャリア開発の課題には、適切なキャリアパスの選択や目標設定の難しさがあります。自分自身の能力や興味に合ったキャリアパスを見つけることや、将来の目標を明確にすることは、多くの人にとって課題となります。また、現代の労働市場の変化により、キャリアの多様化や転職の頻度が増えています。そのため、自己ブランディングやスキルのアップデート、市場のトレンドを把握する能力も求められます。さらに、キャリア開発の課題にはワークライフバランスやストレス管理も含まれます。仕事とプライベートの調和を図り、長期的なキャリアの持続性を確保することも重要です。これらの課題に対処するためには、自己分析やキャリアコンサルティングの活用、学習意欲の維持などが有効です。また、情報収集やネットワーキングを通じてキャリアの可能性を広げることも大切です。

人材育成目標を立てる時の3つのポイント

上記の課題を踏まえた上で、人材育成目標を立てる際に重要なポイントが3つあります。

上位の目標を明確にする

その社員が目指すべき目標を明確にします。「チームリーダーになる」「〇〇の資格を取得する」など、達成基準を具体的に設定することで、ゴールと進むべき方向がわかります。

社員の主体性を養う

与えられた指示をこなすだけでは、社員の主体性は育たず人材育成は不十分な結果に終わります。社員に自らの課題を見つける機会を与え、それを克服させることが主体的な成長につながります。

長期目標と短期目標を設定する

目標と期日が明確であるほど、人間は行動します。人材育成目標も、長期目標と短期目標を設定することが大切です。

人材育成の目標例

企業内の目標というと、売上や営業販売数などを思い浮かべますが、それ以外の部門でも目標を明確に立てることができます。いくつかの例を紹介しましょう。

  1. 総務:自動計算ツール導入により、残業時間など勤怠の計算にかかっていた5日分の人的労力を削減。         
  2. 営業:リモート営業を導入し、1日の商談数を50%増やす
  3. 企画・開発:自社SNSアカウントの投稿を毎日3回行い、商品ページのビュー数前年比200%を目指す。         
  4. 人事:オンラインのイベントを月1で実施し、応募者を増やす。        
  5. カスタマーサービス:2年後にはQAとなり、リーダーを補佐する。

企業ができる育成課題解決

育成の当事者だけではなく、企業自体にも解決できることがあります。それは企業側が次のような、経済的支援や時間的猶予の確保など、社員が自己啓発や学びに取り組める余裕を与えることです。

  • 受講料などの金銭的援助
  • 就業時間の配慮        
  • 教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供

労働者側の主体的なスキルアップを求め、自己啓発に対する費用拠出を行う予定がない企業が多いですが、このような支援がある場合は支援がない場合と比べ、社員が積極的に自己啓発を行いスキルアップをする傾向が見られます。

人材育成の課題を解決する手法

人材育成の課題を解決する流れは次の通りです。

  1. 現状を把握し人材育成の課題を洗い出す(課題の可視化)
             
  2. 人材育成の目標を設定する(明確な目標設定)
             
  3. 人材育成に充てる時間と予算を確保する(時間と予算)
             
  4. 実施し、繰り返し振り返りと軌道修正を行う(PDCAサイクル)

課題の可視化

まずはじめに、自社の現状を把握する必要があります。自社が抱える人材育成上の課題を徹底的に洗い出します。この時点では、幅広く情報収集を行い、分析を行います。現場の実情を正確に把握できれば、育成によって補強すべきスキルが明らかになります。ここで有効なのは次の2つの手法です。

  1. 現場のメンバーから問題点を聞き取りする。現場の声を聞くことで実情に即した計画が作成でき
  2. スキルマップの作成。ポジションや勤続年数によって必要とされるスキルを明らかにすれば、誰が何のスキルが不足しているかが明確になります。

例えば、下記のような問題点や傾向を徹底的に分析することが大切です。

  • 退職者の多い部署・少ない部署         
  • 同種の業務を行う拠点間の残業時間の差異         
  • 勤怠や業務成績の傾向         
  • 人事評価の結果         
  • 同年次の社員間の比較
  • 業務中・通勤中含め事故報告書・稟議書・業務提案書の件数や内容(個人・部署間比較)

明確な目標設定

人材育成の目標や方向性を明らかにします。何を目指しているかがわからなければ、育成活動は形だけのものになってしまいます。育成する側と育成対象者が同じ目標を共有できるよう、具体的な人物像を設定します。この人物像は、部署、年代、職種、ポジションによって異なります。また「いつまでにどこまで」達成するべきかも明らかにしておくと効果的です。このペルソナと期限の具体化には次のような効果があります。

  • 育成対象者が目標と現状のレベルを把握できる         
  • 人事部門と現場の連携が取りやすくなり協力できる        
  • 育成を外注する際、より具体的な要望を出せる

人材育成にあてる時間の確保

資産形成と同じで、余ったリソースを回しましょうという姿勢では、人材育成は進みません。人材育成にあてる時間は先に確保しておきます。もちろん、タスク管理ツールの導入、研修マニュアルの作成など育成を効率的に進める努力も必要です。

PDCAサイクルを回す

人材育成においてもPDCAサイクルは有効であり重要です。人材育成の施策の実行をゴールにしてはいけません。定期的に効果を検証し、問題点を解決し改善していく必要があります。例えば、育成計画に力を入れていても、対象者本人のキャリアプランとかけ離れていたり、対象者と育成担当者との相性が悪い場合は、完全に逆効果になってしまい退職のリスクすらあります。スキルアップできているかどうかだけでなく、定期的に当事者以外の人事担当なども交え、最適な育成手法を探ります。

まとめ

人材育成に課題を抱えていて上手くいかないという企業や現場は少なくありません。今回は人材育成に際し見られる主な課題とその解決法について解説しました。

  • 人材育成の現状と課題         
  • 人材育成目標を立てる時の3つのポイント                                   
  • 企業ができる育成課題解決        
  • 人材育成の課題を解決する手法



             
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