マネジメント・アプローチという考え方はIFRSにおける事業セグメントで最も重要とされています。今回はこのマネジメント・アプローチについて解説したいと思います。
- マネジメント・アプローチとは
- セグメントについて
- 従来のセグメントから新しいマネジメント・アプローチへ
- マネジメント・アプローチの長所と短所
- 問題点への対応法
マネジメント・アプローチとは
マネジメント・アプローチとは、セグメント情報におけるセグメントの決定の際に用いられる手法です。つまり経営者のような企業の最高経営意思決定機関が、経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために、事業部、部門、子会社など構成単位に組織を分別する方法です。マネジメント・アプローチに基づき決定されたセグメントによる情報開示は、「経営者が意思決定や業績評価に用いている情報そのものを開示することが、財務諸表利用者にとって有用である」という考え方に基づきます。
セグメントについて
と、ここまで読んでも何のことだかわからないという方は少なからずいるでしょう。セグメントについて理解することで、マネジメント・アプローチの役割がわかりやすくなると思われますので、まずはそこから説明します。
従来の事業セグメントと報告セグメント
まずセグメントとは何か。セグメントとは「ある会社の多岐にわたる事業内容を種類分けした時のその単位(かたまり)」だと考えてください。会社やグループ全体で一つの業績情報を開示しただけでは、投資家など利害関係者にとって十分な情報提供ではありません。事業の種類ごとに業績と経営資源の内訳を明示することが必要です。
セグメントは、業績情報を管理・集計する単位として企業内部で利用される業績評価単位の「事業セグメント」と、有価証券報告書やアニュアル・レポートなどの投資家向け開示資料で使用される業績評価単位である「報告セグメント」に分かれます。一般的に「事業セグメント」よりも大きなかたまりとなり、一企業内のその数は少なくなります。
事業セグメントの要件
事業セグメントは次の3要件を満たす必要があります。
- 事業活動に従事することで、収益を獲得し費用を負担している
- 最高業務意思決定者(Chief,Operating Decision Maker, CoDM)がその構成要素への資源配分に関する意思決定を行い、業績を評価するため経営成績を定期的に査定している
- 当該構成要素をほかの構成要素から分離した財務情報が入手可能であること
新しい考え方としてのマネジメント・アプローチ
このように、従来のセグメント情報開示では、「事業管理用セグメント」と「財務報告用セグメント」の単位、集計のプロセスやタイミングが異なっていました。またそれぞれの管理者責任も繋がっていませんでした。非効率や責任所在の不明確さなどの弊害を解消するため、IFRSでは米国会計基準の実務をベースに、「事業管理用」のセグメントを「外部報告目的」にも使用すると決定しました。この考え方を「マネジメント・アプローチ」と呼びます。
セグメントとマネジメント・アプローチの意味、関係が明確になりましたでしょうか。
セグメント情報の集計
既に述べたように 「報告用セグメント」は「事業セグメント」よりもかたまりが大きく、「事業セグメント」を「集約」して作られます。この集約には次の2段階があります。
集約基準
事業セグメントが下記の点で似た経済的特徴を持っている場合に、それらをまとめて1つのセグメントに集約する考え方を集客基準と言います。
- 製品・サービスの性質
- 製造過程の性質と技術
- 製品・サービスが販売・提供される顧客の類型または種類
- 製品を流通させる、あるいはサービスを提供する方法
- 銀行、保険会社、公益事業など一部の事業に関連する特殊な法律・規制環境
量的基準
次に、集約基準に基づいて集約されたセグメントを次の3段階のテストによって識別する考え方を量的基準と言います。
- 収益テスト:「そのセグメントの外部顧客向け売り上げ+セグメント間売上・振替高」が「セグメント総収益」の10%を超えるか
- 損益テスト:「そのセグメントの損益」が「利益獲得セグメントまたは損失計上セグメントの合計」の10%を超えるか
- 資産テスト:「そのセグメントの資産」が「セグメント資産合計」の10%を超えるか
これらのテストのいずれかの条件を満たせば、そのセグメントは「報告セグメント」とされます。つまりセグメントとして集約されたものの中で、一定の業績数値を示しているものが「報告セグメント」になります。
セグメント情報の開示
集計されたセグメント別の情報については、財務諸表の利用者が事業活動の評価に利用できるようするため、下記の開示を行う必要がある。
- 一般的情報:セグメントとして認識した要因や、報告セグメントの製品・サービスの種類に関する情報
- 利益または損失、資産、負債に関する情報:報告セグメント別に「利益または損失」「資産または負債」などを開示します。また最高業務意思決定者に日常的に報告されているのであれば、外部顧客からの収益」「利息」「減価償却費」などの数値も開示します。
- 調整表の提供:セグメント別に集計した数値の合計と、連結財務諸表の合計数値との関連を示す「調整表」を作成する必要があります。。具体的には「収益」「損益」「資産」「負債」などの数値と情報です。
- 過年度遡及修正:内部組織の再編により、報告セグメントの構成が大きく変わった場合は、原則として組織再編前の過年度(前年度)の情報を修正再表示する必要があります。また、しない場合は、当期のセグメント情報は「新セグメント」「旧セグメント」両方の基準に基づいた内容にしなければなりません。
- 企業全体に関する情報開示:製品・サービスに関する情報、地域に関する情報、主要な顧客に関する情報など。
- セグメント別の数値の測定方法についても開示します。
マネジメント・アプローチの長所、短所
マネジメント・アプローチの長所
マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の長所は次のとおりです。
客観性
実際の企業の組織構造に基づくため、区分に恣意性が入りにくい。
経営者の視点
財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動が予測できるため、企業の将来のキャッシュ・フローを判断できる。
コストパフォーマンス
セグメント情報の基礎となる財務情報は、経営者が利用するために既に作成されているため、追加的費用や労力が少ない。
マネジメント・アプローチの短所
マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の短所は次のとおりです。
単一情報
企業の組織構造に基づく情報であるため、企業間の比較はできません。同一企業の年度間の比較も困難です。
情報リスク
内部の財務情報の開示は、セグメント情報の開示義務のない競争相手や顧客との価格交渉等、事業活動の障害となる可能性があります。
マネジメント・アプローチの問題点と対応方針
マネジメント・アプローチの目的は、「管理会計」と「財務会計」の不整合(財管不一致)の解消です。完全な財管一致は現実的ではありませんが、それを理想像としてこのマネジメント・アプローチを実務面で実現するためには、いくつかの問題点に対処する必要があります。
- 財務会計機能と管理会計機能の連携
従来のやり方では財務会計機能と管理会計機能の所轄部門が異なり、作成プロセスでの連携は見られませんでした。しかしながらマネジメント・アプローチに基づいたセグメントでは、これらをいかに連携していくかが重要です。具体的には、財務会計用の勘定科目体系と管理会計用の体系の基準を共通化させていくことがポイントになります。
- 差異の調整表作成における責任所在の明確化
差異の調整表作成に当たり、「財務会計」「管理会計」所轄部門が連携して、数値の乖離がどこで起きたかを特定し差異調整表に反映していく作業について、どの部門が責任を持つかはっきりさせることも必要です。
- IR部門との連携
IR部門が財務経理部門や経営企画部門と別に存在している場合は、これらとの連携も視野に入れます。
- 集約ロジックの業務プロセスへの組み込み
先に述べた「集約基準」「量的基準」といった集約のロジックを取引データ発生段階から業務プロセスに組み込めば、効率的な数値データ収集、集計、作成ができます。特に事業セグメントを頻繁に変更する組織では、その度に前年度の数値を事業再編後のセグメントに基づいて組み直すことになるため業務負荷が高くなります。業務プロセスに集約作業を折り込んでおけば、作業工数を減らすことができます。
まとめ
マネジメントアプローチに基づくセグメント情報の開示は、投資家など関係者に、経営者と同じ視点での判断材料を開示するという意義があります。マネジメントアプローチに基づくセグメント情報の開示は、企業の内部情報を公にすることになるので、競争上不利益が生じるのではないかという懸念も少なからずあります。しかし,事業執行上の機密情報の開示ではありませんし、企業の信頼性が向上するという大きなメリットがあり、メリットがデメリットを上回るため、IFRSではこのマネジメント・アプローチを採用しています。
この記事でわかることは次の通りです。
- マネジメント・アプローチとは
- セグメントについて
- 従来のセグメントから新しいマネジメント・アプローチへ
- マネジメント・アプローチの長所と短所
- 問題点への対応法
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