人材育成が上手くいかないという悩みを抱える企業や管理職が多いです。今後、5-10年の間に、人材確保が自社の最大の課題かつ脅威になると感じている企業もたくさんあります。マネジメント教育を成功させるには、従来の「管理」との違いをしっかりと理解することが基礎になります。今回は、人材マネジメントに関するマネジメント教育を取り上げます。この記事でわかることは次のとおりです。
- マネジメント教育の重要性と目的
- マネジメントと管理、教育との違い
- マネジメントに必要な能力
- マネジメント研修について
マネジメントの重要性と目的
企業が持つヒト・カネ・モノという3つの資源(リソース)。この資源をいかに効率よく活用し、より多くの成果を得るか。これが企業活動の根幹です。この中でヒト、つまり人材は、成長が可能です。さらに、少子高齢化により人材不足、グローバル化、IT化などにより、優秀な人材への需要は高まる一方です。しかしいくら優秀な人材が欲しくても、優秀な人材が成長し活躍できる土壌がなければ、集まりません。採用したところで「宝の持ち腐れ」になり、離職率が上がるだけでしょう。そのため人材マネジメントを制するものはビジネスを制すると言っても過言ではないほど、優秀な人材を育て成長させる能力が企業やマネジメント担当者に求められているのです。
人材の育成、確保(離職予防)、技能向上には、自己評価を起点とした全社的で体系的な取り組みが必要です。そして本人と組織や上司の協働が必須です。
マネジメント教育は、本来、本人の強みを発揮させ成果をあげさせるためのものです。上から指示された、言い方を変えれば命令され押し付けられたともいえる、他人の考えではなく、自分のやり方によって自発的・自主的に行動できるようにするためのものです。社員を変えて型にはめるためではなく、その人らしさを発揮させることが最大の目的です。
オートメーション化、グローバル化、IT化、ダイバーシティ(多様性)といった世の中の急速で大幅な変化もあり、マネジメントや人材育成に求められる水準は高度化しています。しかしながら、よく考えてみれば、人の能力はそんなに急激に変わりません。これは社員側にも管理職側にも言えることです。ではどうするべきかというと、経験、勘、直観による管理や教育からマネジメント知識の体系化へ移行することで、成果を向上させることができます。
マネジメントと管理、育成との違い
欧米型のマネジメントと従来の縦型管理、マネジメントと育成。これらの違いを理解していない経営者や管理職は少なくありません。これらにどのような違いがあるのか、理解しておきましょう。
マネジメントは、企業や部署の目標を達成するために、適切に組織を運営することです。管理や育成とは、上司や先輩など経験や能力がより優れているとされる人が部下や後輩を指導し、自分たちの経験や部署の仕事のやり方を教え、育てていくことです。どちらも実際の業務遂行では必要ですが、本人の「自分で考える力」「自分ごととしての認識」「自発的モチベーション」などを育てるには、マネジメントが重要です。
また昨今の若者が職場や上司に期待することの筆頭に「私生活に対し干渉や邪魔をしないで欲しい」という意見が上がることからもわかるように、忠誠、愛情、行動様式ではなく、成果を求めることが、今後の人材育成では重要です。繰り返しますが、その人の性格を変えるのではなく、その人の強みを発揮させることが必要なのです。
しかしながらこれらの違いの認識や、マネジメント手法は、勝手に身に付くものではありません。そのため、社員へのマネジメント教育同様に、正しく効果的なマネジメントを行えるマネージャー、管理職、指導者を育成する必要があります。
マネジメント開発とマネジメント教育
混乱を招きやすい類似の言葉に「マネジメント開発」というものがあります。マネジメント開発とマネジメント教育の違いは何でしょうか。
マネジメント開発とは、組織に必要なマネジメントの人物像を明らかにすることです。具体的には、マネジメントの年齢構成、マネジメントの人間が獲得しなければならないスキルなどです。また、組織の構造と職務の設計も含まれます。
マネジメント教育は、組織の求める人物像に社員を成長させるため、能力と長所を最大限に発揮させることです。目的は成果ですが、成果をあげるためには本人の自発性が必須であり、そのためマネジメントは育てるのではなく育つべきものと言われます。具体的には自己評価を基点にした自己開発が前提条件です。
マネジメントに必要な能力と研修
マネジメントに必要な能力
マネジメントする者に必要な能力やスキルはいくつもありますが、大別すると次の3つに分けられます。
- 部下を育成するスキル
- 組織を形成・強化するスキル
- 経営に関するスキル
それぞれのスキルについて解説します。
部下を育成するスキル
優秀な人材の退職を防ぎ、社内で能力やスキルを向上させた優秀な人材が次々と活躍する。これが理想です。そのためには、例えば次のようなスキルが必要になります。
- 分析力:部下の経験、能力、やる気などを適切に把握するには分析力が必要です。
- 目標設定と決断力:組織の目標をはっきりと設定する必要があります。そのためには決断を求められるシーンがいくつもあるでしょう。
- プレゼンテーション力:メンバーや部下、他部署などに伝え納得させる力が必要です。
- コミュニケーション力:日頃からのコミュニケーションがしっかりできていれば、進捗、課題、社員の問題などにもいちはやく気付くことができ、また信頼を得られます。
組織を形成・強化するスキル
個々の部下のマネジメントだけでなく組織形成も、管理職の役割です。部下と部下を連携させる、他部署と連携するなどによって、お互いを補完しより高いパフォーマンスを生み出すことができます。俗な言葉で「上手く仕切る人」「上手にまとめる人」という言い方がありますが、ここでも、コミュニケーション力、リスク回避力、分析力などが必要になります。会議を円滑に進めるため段取り、進行、支援をする「ファシリティーション」というものがありますが、ファシリティーションスキルに優れた人は、組織を形成・強化する際にも能力を発揮するでしょう。例えば次のようなスキルが挙げられます。
- 目的を押さえ、目標を確認し、共有するスキル
- コミュニケーションスキル
- 構造化のスキル:バラバラな意見や立場、利害関係を整理しながら論理的に絞り込んでいくスキルです。
- 決断力
経営に関するスキル
マネジメントは自分のことだけではなくチームや部署全体のことを考えるというのは、誰しも知っていることですが、実はそれだけでは不十分です。企業全体の数字や流れ、バランスについても把握し意識する必要があります。自部門の状態や数字を企業全体の数字に繋げて考えることを「経営数字力」と呼びますが、これは優秀なマネジメントには不可欠な能力です。
マネジメント研修の目的
このような高いスキルや能力を自動的に身に着けることはなかなか難しいと言えます。そのため優秀な管理職を育成するため、マネジメント研修を実施している企業があります。そこで期待されているのは「部下を管理・育成し、組織を強くし、売上の面でも会社を成長させる人材」です。既存の管理職と新任の管理職、双方が対象になります。
マネジメント研修の実施方法
マネジメント研修を実施する方法は、次の3種類があります。
- 社外のセミナーに参加
- 社内で研修
- オンライン研修
社外研修・セミナー
外部の研修会社が実施している研修に、参加します。様々な会社の社員が参加するので、人脈が広がる、自社と異なる視点や価値観を知るといったメリットがあります。一方、社外研修は時間や場所が決まっており、管理職が不在になってしまうというデメリットもあります。例えば幹部候補である特定の社員が何度も育成研修に参加し不在だとします。そうすると他のメンバーがその仕事を行わなければなりません。自分たちは選ばれていないのに穴埋めをしなければならないという状況は、一歩間違えると、意欲や生産性の低下につながります。また、社外研修は大都市圏で行われることが多いため、地方に住んでいる場合は交通費や宿泊費などの費用も負担になりかねません。
社内研修・集合研修
自社の社員しか参加しないので、自社に特化した研修を行う事ができるというメリットがある一方、会場準備、研修資料、講師の依頼など、実施する側の手間がかかるデメリットもあります。
オンライン研修
自分の好きな時間や場所で受講できる上に、不明な部分は何度でも繰り返し理解できるまで受講できることがメリットです。一方、個人で受けるため、他の受講者との関係構築は望めません。また本人のやる気によって、効果が最も大きく左右されるというデメリットがあります。
3つの注意点
- 研修自体を目的としない:研修を進めていくに連れて、研修を行うこと自体が最終的な目的となってしまうことがあります。目的は、成長、成果です。
- 研修をやりっぱなしにしない:研修を受けた社員に対して最後にアンケートやレポートを書いてもらい、研修をしっかり振り返るようにしましょう。
- 最初に具体的な研修の目標を立てる:研修を計画する段階で、具体的な研修の目標を立て、目標にどれくらい近づいたかを振り返ります。
マネジメント教育の成功要因
近年、組織の成功に欠かせない要素として、マネジメント教育の重要性が注目されています。しかし、教育プログラムの成果を最大化するためには、成功要因を理解し適切に取り入れる必要があります。マネジメント教育の成功要因に焦点を当て、リーダーシップの役割から参加者の関与、継続的なフォローアップまで、実際の事例を通じて探っていきます。組織の成長と発展に向けて、マネジメント教育の効果的な実施に必要なポイントを紹介します。
リーダーシップの役割
マネジメント教育において、リーダーシップの役割は不可欠です。リーダーシップは、組織内の方向性を示し、メンバーを指導し、目標達成に向けて努力を促す役割を果たします。リーダーはビジョンを明確にし、チームを結束させるためのコミュニケーションスキルや人間関係の構築能力が求められます。さらに、リーダーは自己啓発や知識の共有を通じて、メンバーの成長をサポートする責任を負います。リーダーシップの存在と影響力がマネジメント教育の成功に不可欠であり、組織全体のパフォーマンス向上に繋がる重要な要素です。
参加者の関与と貢献
マネジメント教育において、参加者の関与と貢献は非常に重要です。参加者の関与は、自己意識の向上や主体性の育成を促し、個々の能力を最大限に引き出すことができます。関与を高めるためには、積極的なコミュニケーションや参加者の意見やアイデアへの真摯な対応が必要です。また、参加者が自身の貢献を実感し、組織やチームの目標に向けて積極的な行動を起こすことが重要です。貢献を引き出すためには、目標設定やフィードバックのプロセスを通じて参加者の成長を支援し、彼らが自己成長の意欲を持つことが重要です。参加者の関与と貢献が高まることで、マネジメント教育の成果はより大きくなり、組織のパフォーマンス向上につながります。
継続的なフォローアップ
マネジメント教育において、継続的なフォローアップは重要な要素です。フォローアップは、教育プログラムの終了後も学習の継続と成果の定着を支援します。参加者との個別の面談やグループワークの活動などを通じて、学んだ知識やスキルを実践に移すサポートを行います。また、定期的なフィードバックや評価を通じて進捗状況を把握し、必要な修正や改善策を提供します。継続的なフォローアップは参加者のモチベーションを維持し、学習の継続性を確保するだけでなく、個々の成果を最大化するための支援を行います。さらに、フォローアップは参加者とのコミュニケーションを強化し、彼らの成長と発展に向けた長期的な関係を築くことも可能です。継続的なフォローアップによって、マネジメント教育の効果が最大限に引き出され、参加者の成長と組織の発展が促進されます。
組織文化の重要性
組織文化は組織の核となる要素であり、その重要性は計り知れません。組織文化は共有された価値観や信念、行動様式などから成り立ち、組織の方向性や振る舞いを形成します。良好な組織文化は社員のモチベーションやエンゲージメントを高め、チームワークやコラボレーションを促進します。また、組織の価値観や目標に基づいた行動が一貫して行われることで、組織のパフォーマンス向上や成果の創出にも寄与します。さらに、組織文化は組織のアイデンティティを形成し、社員の組織への帰属感や誇りを醸成します。組織文化を適切に構築し維持することは、組織の成功と長期的な持続性に不可欠です。
レビューと改善
レビューと改善は組織の成長と進化に欠かせないプロセスです。レビューは現状の評価や問題点の特定に役立ち、改善策を見つけるための情報を提供します。改善は問題解決やプロセスの最適化を通じて組織の効率性や品質を向上させます。定期的なレビューやフィードバックを通じて組織全体が成長し、学習を促進することが重要です。また、改善にはリーダーシップのサポートやチームの協力が必要であり、持続的な改善文化を醸成することが成功の鍵となります。レビューと改善は組織の競争力を高め、進歩と革新を促進する重要な活動です。
まとめ
マネジメントの目的は、人材育成と会社の目的達成です。人材マネジメントを成功させるためには、部下を管理・育成でき、組織を強くすると同時に、売上の面でも会社を成長させることができる優秀な管理職が必要です。そのため、マネジメント研修で、「部下を育成するスキル」「組織を形成・強化するスキル」「経営視点」、この3つを学ばせる企業が増えつつあります。
この記事で解説したことは次のとおりです。
- マネジメント教育の重要性と目的
- マネジメントと管理、教育との違い
- マネジメントに必要な能力
- マネジメント研修について
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