企業が大きな目標を達成するためには、それを実現するために長い過程があります。この過程=プロセスを正確に見定め、正しく遂行できているか管理しなければなりません。そのために設定されるのが、中間目標がKPI (重要業績評価指標) です。
この記事では、次の点について解説します。
- KPIとは
- KPIのメリット
- KPIとKGI、OKR、CSF、ビジネス評価指標、それぞれの違い
- KPIの設定方法
KPIとは
KPI とは、Key Performance Indicator の頭文字をとった略称で、日本語訳は「重要業績評価指標」です。企業が目標を達成するプロセスにおいて、どれくらい達成できているかを測るための指標で、中間目標数値と言えます。KPI を正しく設定し、管理すれば、最終目標の実現に向け戦略的に向かえるのです。そのためには、具体的かつ測定可能なKPIにすることが重要です。
KPIを設定するメリット
KPI を適切に設定すると、次のようなメリットがあります。
- 目標が明確になる
- KGIとの関連性が高いKPIを設定すれば、KPI達成が促進される
- リソース管理の意思決定材料になる
- 定量的な指標なので、統一した基準で客観的かつ公平に測定や評価が可能である
- 管理可能でPDCAサイクルが回しやすい
- プロジェクトが会社全体の目標にどのように寄与するのか、チーム全員が同じ認識を持てる
- 「いつまでに」「どのように」「何をすべきか」が明白になり、モチベーションや効率の向上につながる
KPI と KGI、OKR、CSF、ビジネス評価指標、それぞれの違い
KPI と一緒に耳にすることが多い言葉に、KGI、OKR、CSF、ビジネス評価指標といったものがあります。それぞれの違いを見ていきましょう。
KPIとKGIの違い
KPI設定で必ず考えなくてはならないのがKGIの存在です。KGI は Key Goal Indicator の頭文字をとった略称です。日本語にすると重要目標達成指標となります。つまりKGI は最終目標を示す指標です。この数値をクリアすれば「目標達成」であると表すものなのです。
KPIとKGIの違いについて、わかりやすい例を挙げます。
- KPI:新規顧客獲得数500件
- KGI:売上目標1億円
KPI と OKR の違い
OKR は「Objectives and key results」の略です。「目標と主要な結果」と訳され、「[主要な結果] に基づき測定される [目標] を達成する」という考え方のビジネス指標です。少し紛らわしいですが、「目標」は達成したいゴール目標を、「主要な結果」はその目標に向けた進捗状況を意味します。
OKR の内の KR (主要な結果) にKPIは似ていますが、次のような違いがあります。KR は目標が何かにより、定性的な KR と定量的な KR の両方があり得ます。しかしKPI は常に数値化が必要です。またKPIは長期的目標設定時に用いられ、OKR は短期的目標で用いられることが多いです。KPIとOKR のわかりやすい例を挙げます。
KPI とビジネス評価指標の違い
ビジネス評価指標という言葉を聞いたことがある人もいらっしゃるでしょう。ビジネス評価指標は、具体的なビジネス目標に向けた進捗を定性的に測定するための手法です。KPIとビジネス評価指標は併用することができます。 例を挙げます。
- KPI :今期末までにウェブサイトの訪問者数を 20,000 人増やす。
- ビジネス評価指標:ウェブサイトのページ別訪問数 (ユニークページビュー)。
KPI と CSF の違い
CSFは Critical Success Factor の頭文字をとった略語です。日本語にすると重要成功要因となります。CSFは戦略的に目標を達成するために設定する全体目標 (全体的戦略目標)です。KPI は測定可能な定量的指標ですが、CSFは具体的な内容とは限りません。例を挙げます。
- KPI :自社メルマガ登録者数を1 万人に増やす。
- CSF:ブランド認知度アップ。
先行指標と遅行指標
KPI には下記の 2 つのタイプが存在します。
- 先行指標: 先にあらわれ、遅行指標につながる数値
- 遅行指標: あとから結果としてついてくる数値
すべてのKPIは最終的にはKGIにつながりますが、ゴールに近いKPIは遅行指標でなければなりません。少しわかりにくいと思いますので具体例を紹介します。
ブログマーケティングプロジェクトで KPI 設定をするとしましょう。
投稿 1 件あたりの関連キーワード数のように投稿前に設定できるKPI は、先行指標です。検索エンジンでのランキングやコンバージョン (製品、サービスを購入するユーザー数)のように、記事投稿後に得られる数値は遅行指標となります。
KPI の設定方法
いよいよこの記事のメインテーマであるKPIの設定方法についてお話します。
ビジネス目標(KGI)を設定する
KPI を策定する前に、最終的に目指す目標を明確にしなくてはなりません。組織の3 か年目標、5 か年目標といった長期的戦略をまず立て、それを年間目標に細分化します。次に、半年ごとまたは四半期ごとの KPI に細分化していくのです。
KGI・KPIを設定するときには、KPIツリーと呼ばれるロジックツリーを利用すると作業が簡単になるのでおすすめです。KPIツリーはKGI、つまり最終目標をツリーの頂上に置き、そこからその目標を達成するためのKPIを細分化し、ツリー上に枝分かれさせていきます。繋がりが一目瞭然なうえ、見落としや重複も防げます。
重要なビジネス評価指標を特定する
ゴールが定義できたら、そのゴールを実現するためのビジネス評価指標を洗い出し、最終目標との関連性が強いものを選びます。すべてを KPI にする必要はありません。あまりに多くのKPIを設定してしまうと、リソースが分散されてしまいどれも中途半端に終わる危険性があります。KGIの実現に最も重要なもの、つまり関連性が高いものをKPIとして優先的に設定しましょう。
KPI を作成する
ここまでの作業が済んだら、いよいよKPI を設定します。KPI を設定するときは次の「SMART (スマート)」の 5 要件に当てはまっているかを確認します。
- Specific (具体的な)
- Measurable (測定可能な)
- Assignable (誰がやるのか割り当て可能な)
- Realistic (現実的)
- Time-bound (期限がある)
SMARTの法則とは
SMARTの法則とは、1981年にコンサルタントのジョージ・T・ドランが自身の論文の中で提唱した考え方です。40年以上前に提唱された法則ですが、大変使いやすく、現在でも多くの企業で採用されています。5つの法則について順に説明します。
- Specific (具体的な):Specificとは、「具体的」という意味です。誰が聞いても認識が同じになるほど、目標が明確であることが重要です。たとえば、「顧客第一主義」という目標は、何を指すかが人によって異なります。「レビュースコア4.5以上を目指す」といったように具体的な基準にするようにしましょう。
- Measurable (測定可能な):Measurableは「測定可能か」という意味です。あいまいな目標の場合、目標をどれくらい達成できたかが不明です。正しく評価ができないと、無意味な目標になってしまいます。評価基準を明確、公平にするために、数値で達成度を測れることが重要です。
- Assignable (誰がやるのか割り当て可能な):Assignableは「誰が担当するのか割り当て可能な」という意味です。誰かがやるはずというような状態では、取り掛かるのが遅くなり、また自発的に責任感を持って行う姿勢が期待できません。それぞれの業務につき責任を持って遂行する者をあらかじめ決めておくことで、取りこぼしや重複がなく、効率的にKPIを達成できます。
- Realistic (現実的)/Relevant (関連性のある):Realisticは「現実的な」という意味です。どうやっても実現できないような目標は無意味であるだけでなく、従業員のモチベーションを下げたり、強引に達成しようとするあまり問題行動を引き起こし損害を生じさせることもあります。Relevantは「関連した」という意味です。KPIが最終的なKGIの実現に繋がっていることが重要です。KPIをクリアすればKGIが達成できるという関係になければ、KGIを設定する意味がありません。
- Time-bound (期限がある):Time-boundは「期限を定めた」という意味です。期限を設定することが非常に大切です。期限がないと迅速に取り組み目標達成することが困難になります。はっきりと期限を決め、間に合うように計画を立てることが、業務の効率化に繋がります。
リアルタイムの進捗状況を追跡、管理する
KPI は設定するだけではいけません。どのような目標でもそうですが、管理しPDCAサイクルを回すことが重要です。進捗状況を追跡します。またこの進捗状況はプロジェクトに関わる全員が共有していることが大切です。
ステークホルダーの参画
KPI設定において、ステークホルダーの参画は極めて重要です。彼らの視点や知見を反映させることで、より的確なKPIが設定され、組織全体の目標達成に繋がります。ステークホルダーの参画の重要性と具体的な方法に焦点を当て、成功へのポイントを解説します。
ステークホルダーとは
ステークホルダーとは、組織やプロジェクトに関連し、その成果や活動に影響を及ぼす関係者のことを指します。ステークホルダーには経営者、従業員、顧客、株主、取引先、地域社会などさまざまなグループが含まれます。彼らは組織の成功や失敗に関心を持ち、組織の活動に対して影響力を持っています。ステークホルダーの参画と意見を尊重し、適切なコミュニケーションを図ることは重要です。彼らのニーズや要望を理解し、関係を築くことで、組織の持続的な発展や成功に向けたサポートを得ることができます。ステークホルダーとの協力を通じて、組織はより良い意思決定を行い、より高い成果を達成することができるでしょう。
参画の重要性とメリット
ステークホルダーの参画は、組織の成果に大きな影響を与える重要な要素です。彼らは組織の利害関係者であり、内外からの異なる視点や知識を持っています。そのため、参画により組織全体の目標に適したKPIを設定しやすくなります。ステークホルダーの参画によって、目標の透明性が高まり、組織の方向性が明確になります。さらに、関係者が自らの関心事を反映させることで、モチベーションや協力が促進され、結果的に成果を最大化することができるでしょう。
参画プロセスとコミュニケーション
参画プロセスとコミュニケーションは、KPI設定の成功において不可欠な要素です。まず、参画プロセスでは、ステークホルダーとの対話や意見交換を行い、彼らのニーズや期待を把握します。この過程で、目標を共有し、相互の理解を深めることが重要です。次に、コミュニケーションはステークホルダーとの持続的な関係構築に焦点を当てます。定期的な進捗報告やフィードバックの提供、意見の収集など、円滑な情報共有を行うことで、ステークホルダーの協力と信頼を確保します。適切な参画プロセスとコミュニケーションによって、KPI設定はより妥当性のあるものとなり、組織の成果を促進することができるでしょう。
ステークホルダーの役割と貢献
ステークホルダーの役割と貢献は、KPI設定において極めて重要です。組織の目標達成に向けて、彼らは多角的な視点や専門知識を提供し、戦略的な方向性を示す役割を果たします。例えば、経営層は戦略的なビジョンを示し、部門リーダーは具体的な業務目標を提案することで、KPIの設定に寄与します。さらに、従業員は現場の情報や課題を提供し、改善の方向性を示すことで貢献します。ステークホルダーの多様な視点や参画によって、KPI設定はよりバランスの取れたものとなり、組織全体のパフォーマンスを向上させる手段となります。彼らとの協力を確保することで、組織の成功により近づくことができるでしょう。
部署ごとのKPI例
KPIの設定が初めての場合、どのようなKPIが良いのか悩むかもしれません。以下に部署ごとのKPI例をまとめました。参考になると思います。
財務関連の指標例
- 年間経常収益
- 売上高純利益率
- 運転資本
- キャッシュフロー
顧客関連の指標例
- 顧客獲得単価
- 顧客満足度
- 顧客維持率
- 顧客解約率
- 新規ユーザー数
人材または人事のKPI指標例
- 社員定着率
- 従業員満足度
営業のKPI指標例
- 獲得率
- 競合他社に奪われた契約件数
マーケティングのKPI指標例
- コンバージョン率
- SNS フォロワー数
- メルマガのクリック率
まとめ
この記事ではKPIの設定方法について解説しました。組織が掲げた最終目標を確実に実現するには、その目標と現状とのギャップを正確に把握し、中間目標を立てる必要があります。中間目標を正確に設定することで、それらをクリアしていけば最終ゴールにたどり着くといういわば標識のような役割を果たすからです。これが指標としてのKPIです。ただしKPIは具体的な数字で適切に設定されなければ、効果がありません。SMARTの法則に基づいて効果的なKPIを設定しましょう。
この記事でわかることは下記のとおりです。
- KPIとは
- KPIのメリット
- KPIとKGI、OKR、CSF、ビジネス評価指標、それぞれの違い
- KPIの設定方法
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