企業の主なリソース(資源)は、ヒト・モノ・カネ、この3つです。現代では、この3つに加え、情報も企業資源となります。この限られた資源を、いかに効率的に利用し最大の成果を出すか。これが企業活動です。特にわが国では、深刻な少子高齢化が進み、人材の確保が課題となっていることもあり、人材育成が急務です。多くの企業が人材育成の必要性を感じ、取り組んでいます。 人材育成をスタートするにあたり、「どのような人材を育成したいか」「どのような人物になりたいか」という目標設定は不可欠です。今回はこの人材育成の目標について、次の点を解説します。
- 人材育成の目標とは
- どのように設定するのか、職種別の目標例も
- 設定した人材育成をどう管理するべきか
人材育成の目標とは
人材育成の目標とは、自社が理想とする人材像へ社員を成長させるためのものです。しかしながら、会社が社員に与えるのではなく、社員それぞれが設定し達成に向け試行錯誤しながら取り組み成長することが重要なので、主に上司であるマネージャーの役割は適切な管理・フォローに留まります。
なぜ人材育成において目標設定が重要なのか
人材育成には目標設定が不可欠とされていますが、それはなぜでしょうか。目標設定が重要である3つの理由を解説します。
社員のモチベーション向上
自分で目標を設定させることで、「やらされてる感」「他人事」というネガティブな感情を払拭し、モチベーション向上を図ります。自分で設定した目標を達成するため、自発的に取り組むことが期待されます。
社員のスキルアップ
社員が目標の達成を強く意識すれば、現状の能力では目標達成が難しい場合成長に向けて努力します。その過程で新たなスキルや知識を習得できるため、人材育成に大きな効果があります。
企業の方向性を周知するため
目標は、企業の経営戦略やビジョンに基づいて設定されます。相反する目標はあり得ません。人材育成における目標設定は、改めて経営戦略やビジョンを周知する効果もあります。
人材育成をなぜ行うのか
人材育成に目標設定が重要かつ有効であることはわかりましたが、ではそもそもなぜ人材育成を行うのでしょう。人材育成の目的についても今一度確認しておきましょう。人材育成の目的は、社員の成長です。社員の成長は企業の発展に寄与します。大きくわけると次の3つの要素を含みます。
ビジネスマインドの醸成
企業理念、組織人としての心構え、ビジネスマナーなど基本的な考え方を習得、是正、構築します。
スキルや専門性の向上
社員には業務に求められるスキルと専門的な知識を身につけ向上させることが求められます。部署の実務は実践的なスキルを習得する機会でもあります。また知識のインプットは、研修やeラーニングが効率的です。
帰属意識の向上
自分がチームや組織の一員であり、一丸となって目的に進むという自覚は、帰属意識を高め、退職防止効果を生みます。また組織の問題や課題を、他人事ではなく自分の問題として捉える姿勢にもつながります。
人材育成の目標の立て方
いよいよ、人材育成の目標を立てる段階になると、「どのような目標を立てたらいいのかわからない」という声が少なからず上がります。まず目標設定の手順を知ることから、始めましょう。次の4つのステップに沿って、進めます。
企業全体の目標を確認する
社員個人個人の目標は、上位目標である企業全体のビジョンに沿うものである必要があります。企業全体の目標から逆算し、個人がいつまでにどのような目標をどうやって達成すれば良いかを決定します。
役割と責任範囲を明確にする
具体的な目標数値を決める前に、組織内の各社員の役割と責任をはっきりさせておくことも必要です。責任の範囲を明確にしないと不当な偏りが起こりやすく、不満やパフォーマンス低下の原因にもなります。
目標項目と目標数値を決める
「組織全体の目標」と「個人の役割・責任」を明確にした上で、各社員の具体的な目標数値を決めます。目標項目には次の4つがあり、どれが該当するかは部門や職種によって異なります。
- 向上・強化:現状をより良くする
- 創出
- 維持・継続:現状を保ち継続させる
- 改善(削減)・解消:現状の問題を改善もしくは解消する
目標項目を設定する時には次の2点が大切です。
- 基準となる自社や自部署の「売上・利益・予算」など関連数値や課題について現状を正確に把握しておくこと
- 企業理念はもちろんですが、経営層が発表している方針など、自社が目指す方向性を理解しておくこと
計画表にまとめる
達成を目指しやすいよう、一枚の計画表にまとめ、いつでも見える場所に置いておくことも効果的です。「何を」「どれくらい」「いつまでに」「どのように」達成するかを言語化します。
目標設定の4つのポイント
目標は、次の4つの視点から設定することが大事です。
定量・定性目標の両方を盛り込む
定量目標とは、「毎日30分運動をする」「成約率を前月より20%増やす」といったように数量や数値で示す目標です。定性目標とは「コミュニケーションを改善する」「メンバーのモチベーションを促進する」など数値化が難しい目標を言いま指します。数値化できる事項は客観的であり、かつデータとして管理しやすいというメリットがありますが、数値にできない部分が見過ごされ偏りが生じます。定性目標を設定すれば、数値だけではわからない側面も評価対象となります。
期日を明確に設定する
目標設定で大切なことは期日の設定です。期日が設定されていないと、社員は小目標、中目標を立てることができず、行動の遅滞につながります。これでは社員やチームの本当の能力を引き出すことができません。
会社や組織全体の目標とつなげる
企業の人材育成の最終目標は、企業の目標を達成することです。そのため企業全体の目標と矛盾しないように、個人の目標を設定することも大事です。
重なるよう、目標設定するのも、人材を育成するポイントです。人材育成の最終的な目標は、企業の目標を達成することにあります。個人を育てるという視点を持ち、同時に会社や組織を成長させながら目標達成ができるような目標にしましょう。企業の目標とチーム・個人の目標の方向性がズレていると、必要なスキルが身に付かなかったり、モチベーションが下がったりする恐れがあります。企業全体やチームの目標を社員に共有し、組織の構成員であるという自覚を持ってもらうことが大切です。
目標達成にどのようなメリットがあるのかを理解させる
人材育成や業務改革の敵は、社員の「やらされ感」です。「命令されたから」「目標設定され義務だから」と仕方なしに、または他人事として捉えている限り、効果は薄いです。自発的・自主的に取り組んでもらうには、人材育成の目標達成が社員にどのような将来をもたらすかイメージさせ意欲を引き出すことが大切です。
人材育成の目標設定例
育成計画は中長期的な社員の成長を目標にします。達成不可能な高過ぎる目標は、無意味であり、また社員のモチベーションを低下させるので、実現できる範囲に設定することが大切です。また人材育成の目標は、職種によって異なります。例をご紹介しましょう。
営業職の目標例
営業職は、全社目標に基づき個人やチームで売上や利益など数値目標を設定します。数値目標を「どのように」達成するかを計画し実践します。
例:今期末までに、売上を現在の20%増加させる(240万円)。電話でのアポイント件数を週3件から6件に増やす。毎週1回、チームリーダーとミーティング。
事務職の目標例
事務職は営業と異なり売上などの数値目標を課せられることは少ないです。しかしながら、正確な処理を求められる職種であるため、ミスの防止や削減を目標とすることが多いでしょう。
例:入力ミスをなくす、または0に近づける。現在の発生率、月2%。これを0.5%に今月中に減らす。上半期終了までに0を目指す。自動化ツールの利用で業務負担を減らす。人的操作が必要な部分のみ二重確認。
マーケティング職の目標例
マーケティングはインターネットや広告などを活用し、多くの見込み客を集めることが役割です。WebサイトのPV数、メールの開封率、コンバージョン率など定量的な目標が立てられます。
例:自社SNSアカウントを積極的に運用し、エンゲージメント率を前期比150%に高める。上半期終了までを目指す。1日3回の投稿。必ずアイキャッチな画像とタグを入れる。
管理職
管理職の役割は、「組織目標の達成」や「部下の能力開発」です。部門の売り上げ目標、残業時間、生産性などを指標にすることができます。
例:部門売上2000万円を達成する。部下の商談に月15件以上同行する。週1回以上、部下と面談しフォローアップを行う。
目標設定とフィードバック
近年、人材育成において目標設定とフィードバックの重要性がますます認識されています。人材育成における目標設定とフィードバックの関係性に焦点を当て、なぜこれらが相互に補完的な要素であるのかを探求していきましょう。目標設定によって明確な方向性とモチベーションが生まれ、フィードバックを通じて進捗や成果を評価し、改善に繋げることができます。また、フィードバックは目標達成をサポートするための重要なツールであり、成長とパフォーマンスの向上を促す役割も果たします。本記事では、効果的な目標設定の手法やフィードバックの提供と受け入れのポイントについて具体的に解説し、人材育成における目標とフィードバックのサイクルの重要性をお伝えします。
目標達成と成長の促進
目標達成と成長の促進は密接に関連しています。目標設定によって明確な目標を持ち、努力と集中を向けることで、成果を上げることが可能です。そして、その過程で得た経験や挑戦によって成長が生まれます。また、達成した目標を振り返り、フィードバックを受けることで自己評価や改善点を把握し、次なる目標に向けたスキルや能力の向上を図ることができます。目標達成と成長のサイクルを継続的に回すことで、個人や組織のパフォーマンスを向上させることができます。
SMART目標設定とフィードバック
SMART目標設定とフィードバックは目標達成と成長の促進に重要な役割を果たします。SMART目標は具体的・計画的・実現可能・測定可能・時間指定性の要素を持ち、明確な目標を設定するためのフレームワークです。これにより、目標が具体的に定められ、達成度を測ることができます。一方、フィードバックは目標の進捗や成果に対する評価やアドバイスです。適切なフィードバックを受けることで自己評価や改善点を把握し、次の行動に反映させることができます。SMART目標設定とフィードバックの組み合わせは、目標を明確化し、進捗を可視化すると共に、成長を促進するための方向性を提供します。
フィードバックを通じた目標達成のサポート
フィードバックは目標達成のサポートにおいて重要な役割を果たします。適切なフィードバックを受けることで、自身の行動や取り組みを客観的に評価し、改善の方向性を見出すことができます。フィードバックは具体的な成果や進捗に対して提供されるだけでなく、行動やスキルに関するアドバイスや指導も含まれます。これにより、目標に向けた努力や学習の方向性を調整し、効果的な成果を上げることができます。また、フィードバックは定期的に行われることが重要であり、継続的な成長を支援します。目標達成におけるサポートとして、フィードバックは進捗の評価や具体的なアクションプランの策定にも役立ちます。その結果、目標達成の確実性や成果の向上に寄与することが期待されます。
目標設定とフィードバックのサイクル
目標設定とフィードバックは相互に関連し、連続的なサイクルを形成します。まず、目標設定では具体的な目標が定められます。それに基づいて行動を計画し、取り組みます。その後、定期的なフィードバックを受けることで、進捗や成果を評価し、必要な修正や改善を行います。
フィードバックは目標の達成度を把握するだけでなく、自身の行動やスキルの改善にも役立ちます。フィードバックを受けて得た情報やアドバイスを参考に、目標に向けた新たな行動計画を立てることができます。このサイクルを繰り返すことで、より効果的な目標達成と個人の成長を促進することができます。
人材育成の目標の管理
人材育成は目標の設定と同様に「管理」も重要です。上司は部下の「自主性」を尊重しながら目標管理を行い、結果としての目標達成と、経過における自主性の成長を実現します。
目標に対する理解を深める:自社の現状や課題の提示によって「目標達成の必要性」を、そして「目標を達成すれば、会社と自分双方に、どのような良い結果を得られるのか」を共有することで、部下の目標に対する理解とコミットメントを深めます。
定期的に進捗確認する:半年や1年と中長期に及びやすい人材育成においては、定期的な進捗確認とフォローが必要です。節目となるタイミングでの個別面談と、定期ミーティングを組み合わせるのが効果的です。うまく推進できていない場合も責めるのではなく、解決のヒントを与え、自分で「どうすれば達成できるかを考えさせることが本人の課題解決能力の成長につながります。
まとめ
人材育成の目標について、基本的な立て方や職種別の目標例、目標管理の重要ポイントを取り上げました。目標を立てる時には「何を」「どのくらい」「いつまでに」「どうやって」達成するのかを具体化することが大切です。また目標管理は当人の自主性を尊重した上で管理するマネジメント型の取り組みが、人材育成の観点から望ましいです。この記事でわかることは次の通りです。
- 人材育成の目標とは
- どのように設定するのか、職種別の目標例も
- 設定した人材育成をどう管理するべきか
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