人材育成マネジメントの目的、課題、手法について 必要なスキルと役立つ資格も紹介

企業の三大資源であるヒト・モノ・カネ。そのうちの一つであり、最も重要な資源と言える人材の確保は、企業が競争力を高めるために不可欠です。優秀な人材がいれば、業務効率化や生産性の向上、イノベーションが期待されますが、高齢化、少子化が進む我が国において有能な人材を十分に確保することは容易ではなく、人材育成がこれまで以上に重要視されています。その人材を育てる人材育成マネジメントは、単に社員の能力やスキルを高めるだけに留まらず、モチベーション(やる気)やエンゲージメント(離職=人材流出を防ぐ)を高める役割も持ちます。これらは企業理念の浸透や法令遵守といった効果も生みます。この記事では、人材育成マネジメント全体を多角的に捉え、次の項目について解説します

  • 人材育成マネジメントの目的、目標
             
  • 人材育成マネジメントの課題
             
  • 人材育成マネジメントの手法
             
  • 人材育成マネジメントに必要なスキル、役立つ資格
目次

人材育成マネジメントの目的、目標

人材育成は単純でもなければ短期的に効果が出るものでもありません。中長期的視点でマネジメントすることによって、人材育成を成功させることができます。求める人物像をゴールとして、そこから逆算して育成計画を策定します。ここで気を付けなければいけないことは、次の2点です。

  1. 中長期のプランニングを策定することで、担当者によって人材育成方法がバラバラになることを防ぐ。この矛盾や一貫性の無さは、育成される側にとって混乱の原因になりますので、避けなければいけません。
             
  2. 経営戦略に沿った人材育成を行う。

何故ならば、人材育成マネジメントには、次の3つの目的があるからです。

  • 組織全体の生産性アップ
             
  • 社員のモチベーションアップ
             
  • 社員の定着

組織全体の生産性アップ

人材育成マネジメントにより社員の能力が向上すれば、個々の担当業務の目的達成や成果が期待できます。そして相互コミュニケーション力やリーダーシップが育まれると、メンバー間や部門間の調整がスムーズになり、組織全体の生産性が上がります。

社員のモチベーションアップ

目標を明示した人材育成マネジメントは、社員の自律的な思考や行動を促します。自分がどうすれば、企業理念に沿った成果を出すことができるかを絶えず意識することは、すなわち「企業に貢献するにはどうすればよいのか」という問いを恒常的に考え実践することにつながります。またその行動に対し、適切な評価を受けることができれば、社員のモチベーションはさらに高まるでしょう。もちろん、本人だけでなく、それを見た周りの社員や、引いては求職者も、意欲や期待を持つようになります。

社員の定着

個人個人の特性を考慮した適切な人材育成マネジメントは、離職を防止します。自分の能力と仕事内容がマッチすれば、よりスムーズに成果を上げられるようになり、モチベーションが向上します。「いい会社」「働いて良かった職場」とは言い換えれば、自分の能力に合った仕事内容と、そこから生まれる成果の正当な評価だと言えます。

人材育成マネジメントの課題

人材育成マネジメントを行うに際し、浮上してくる課題がいくつかあります。それぞれについて解説します。

マネジメント力不足

人材育成マネジメントを適切に担当できる社員がいないケースがあります。一社員として優秀であっても、人材育成に相応しい知識やスキル、マネジメント能力を持っているとは限りません「名選手が名監督とは限らない」という言葉の通りです。また人材育成マネジメントに適した人材がいても、通常業務に追われていれば、人材育成に集中して取り組むことは困難です。通常業務を優先し、人材育成はおろそかになっている企業は少なくありません。しかし、目の前の業務にのみ価値を置くと人材が育たず、長期的には人材が育たない、業務効率や生産性が低下する、離職率が上がるといったように企業の競争力を低下させる羽目になります。人材育成を軽視する傾向を改め、人材育成担当者の業務量を調整するなど経営者側の明確な通達が必要になるかもしれません。

育成機会・環境不足

そもそも企業側に、人材育成マネジメントについてのノウハウ、環境、理解などがなければ、人材育成は難しいでしょう。人材育成には時間がかかるため、長期的かつ体系的な育成システムを確立する必要がありますが、スキルマップや教育計画、マネジメント研修など幅広い施策の方法は、コンサルタントなど外部の力を活用するのも一つの方法です。

目標設定やビジョンが不明確

人材育成マネジメントの要は、「どういう人材を育成したいか」という企業の目標です。これを明確に提示しなければ、社員と目的を共有することができません。社員にしてみれば、何のために、何を目指して走れば良いのかわからないからです。そうすると「やらされてる感」「他人事」としか人材育成計画も捉えられず、効果が現れません。部署や職種、役職ごとに、企業が求める人材像やスキルをはっきり決めると、社員も行動しやすいでしょう。

適切な人材配置

人材を最大限に活かすには、個々の能力と、各部署の現状把握が必要です。一人ひとりの従業員が能力を最大限に伸ばせる部署に配置することができれば、生産性は大きく向上するはずです。しかしながら多人数の集団では、全員の能力や特性を正確に把握することは難しく、全体のバランスもあり、難しい問題です。

人材育成マネジメント手法について

ここで、人材育成マネジメントで用いられる効果的なマネジメント手法を5つ紹介しましょう。

  1. OJT         (On the Job Training)
             
  2. Off-JT  (Off the Job Training)
             
  3. SD         (Self Development)
             
  4. MBO         (Management By Objectives)
             
  5. eラーニング

といっても、いくつかは聞いたこともないという方が多いかもしれません。それぞれについて詳しく説明します。

OJT (On the Job Training)

現場で実際の業務を通して、先輩社員が後輩社員に実践レベルのスキルやノウハウを伝達します。業務と教育の両方を同時に進められるので、人材育成に人的リソースを割かずに済むというメリットがあります。しかし指導する側は自分の業務と教育を平行しなくてはならず、負担は高くなります。

Off-JT (Off the Job Training)

外部講師によるセミナーや社内研修を行います。一般的に複数の社員へ同等の内容を習得させる目的で行われます。座学で集中的に研修を受けるため、エキスパートから専門的、体型的な知識を学ぶことができます。

SD (Self Development)

自己啓発とも呼ばれます。社員が自発的に学習し能力を高める方法で、「書籍を購入して学習する」「自分でセミナーに参加する」などがあります。企業側の制約を受けず学習内容と学習時間を決められるメリットはありますが、費用や時間の捻出が必要になります。

MBO (Management By Objectives)

目標管理制度という意味です。社員個人またはグループで「能力開発目標」「職務遂行目標」「業績目標」などを設定し、達成度合いを評価します。個人やグループ単位で目標を定めれば、受け身ではなく主体的に取り組むようになるため効果が望めます。

eラーニング

「動画」「CBT(Computer Based Testing)」「アプリ」など、インターネットを利用した学習方法のことです。時間や場所を問わずに効率的に学習できる方法です。またeラーニングの学習は、目標達成度、進捗、学習結果などがデータ化され一括管理がしやすい点でも優れています。

人材育成マネジメントの進め方

人材育成マネジメントでは、次の5つのプロセスを繰り返すのが基本的な流れです。

  • 課題の可視化、明確化
             
  • 目標設定
             
  • 計画の立案
             
  • 目標の共有
             
  • フィードバック

課題の可視化、明確化

現在の経営戦略にとって問題になっている人材面での課題を探し出します。これを課題の可視化といい、ます。第一に考えることは自社が「いつまでにどのような人材がどれくらい必要なのか」です。この方向性が決まったら、人材をどのように育成するかを決め、ターゲットとなる既存社員について情報整理や分析を行います。

目標の設定

経営戦略という大きな目標を達成するためには、全社員がそれぞれの担当分野で、同じ目的に邁進する必要があります。目的を達成するための手段は複数あり、各部門がそれぞれ担う作業について具体的な目標値を設定します。

計画立案

次に人材育成計画を立案します。まず目標を達成するためにはどのような人材がどれくらい必要かを算出し現状の人材と比較して何が不足しているかを可視化します。そしてこのギャップを埋めるために必要な研修、資格取得、キャリア採用などを計画します。

共有と実行

策定した計画の内容と目指す目標を社内全体で共有して、目的意識、連帯感、モチベーションをアップします。そして研修などを実行します。

定期的なフィードバック

計画をある程度細分化し、小さな目標のクリアと的確なフィードバックを繰り返すと、社員は現状や改善点を把握しつつ、モチベーションを保つことができます。

人材育成とマネジメントの相互関係

組織の成功において、人材育成と優れたマネジメントは密接に関連しています。以下では、人材育成の重要性やマネジメントスキルの向上との相互補完について探求します。人材育成とマネジメントの連携を通じて、成功への道を切り拓くためのヒントやアイデアをご紹介します。

相互補完のメリット

マネジメントスキルの向上と人材育成の相互補完には、リーダーシップの強化、優れた人材の育成、チームの協力とコミュニケーション、持続的な成長とイノベーションというメリットがあります。マネジメントスキルの向上により、リーダーシップ力が高まり、チームメンバーの指導やモチベーション向上が容易になります。また、人材育成に注力することで、組織内の優れた人材を育てることができます。相互補完的なアプローチは、チームの協力とコミュニケーションを強化し、持続的な成長とイノベーションを促進します。組織の成功と成長にとって、マネジメントスキルの向上と人材育成の相互補完は不可欠な要素です。

マネジメントスキルの向上における人材育成の役割

マネジメントスキルの向上において、人材育成は重要な役割を果たします。人材育成は、優れたリーダーシップやコミュニケーション能力、チームビルディングなどのマネジメントスキルを育むための手段となります。人材育成には、適切なトレーニングや教育プログラム、メンタリング、フィードバックなどの要素が含まれます。これにより、従業員の能力や自己成長が促進され、組織全体のパフォーマンスが向上します。また、人材育成はチームメンバーのモチベーションやエンゲージメントを高め、組織内での才能の発掘や昇進の機会を提供することも可能です。したがって、人材育成はマネジメントスキルの向上において不可欠な要素であり、組織の成功に大きく貢献します。

人材育成におけるマネジメントの役割

人材育成におけるマネジメントの役割は非常に重要です。マネジメントは、従業員の成長や能力開発をサポートし、組織の戦略的な目標達成に向けたリーダーシップを提供します。マネジメントは、従業員の強みや成長のポテンシャルを見極め、適切なトレーニングや教育プランを計画・実施します。また、目標設定やフィードバックを通じて従業員の進捗をモニタリングし、必要なサポートや指導を行います。さらに、チームの協力やコミュニケーションを促進し、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めます。マネジメントは人材のパフォーマンス向上を図り、組織全体の成果を最大化するための重要な役割を果たします。

シナジー効果を生む実践的なアプローチ

シナジー効果を生む実践的なアプローチは、異なる要素を組み合わせることで相互に補完し、より大きな成果を生み出すことを目指します。具体的には、チームメンバーの多様性を活かし、それぞれの専門知識やスキルを結集することが重要です。コミュニケーションや協力を促進するためのチームビルディング活動やワークショップを実施し、メンバー間の信頼関係や共通の目標意識を醸成します。さらに、目標設定や業績評価のフレームワークを明確化し、個々の貢献を認めることでモチベーションを高めます。定期的なフィードバックや振り返りを通じて学びの場を提供し、成長を促進します。組織のリソースやプロセスの最適化にも取り組み、効率性を高めながら創造性やイノベーションを促進します。実践的なアプローチによってシナジー効果を最大限に引き出し、組織の成果を向上させることが可能です。

人材育成マネジメントのスキル、資格

人材育成マネジメントに必要なスキルや資格についてお話します。

人材育成マネジメントに必要な5つのスキル

  1. 統率力
             
  2. 計画力
             
  3. 状況把握力
             
  4. 目標設定力
             
  5. 意思決定力

統率力

育成対象者をまとめるためには統率力(リーダーシップ)が必要です。メンバーまたは部下から信頼されるような行動力とサポート力が欠かせません。

計画力

人材マネジメントに関する計画を策定するためには、計画力と遂行力が欠かせません。論理的で戦略的で多角的な思考でより効率的な筋書を描くことができる能力が求められます。

状況把握力

問題は何か、何が不足しているか、どのように進行しているかなど、絶えず分析し状況を把握する力が、マネジメントを成功させるためには必要です。計画どおりに育成が進んでいるかだけでなく、育成対象者や関係者の心情にも配慮するスキルが求められます。

目標設定力

目標設定力とは、目的の達成のために具体的に何をすべきかを明示できるスキルです。これによってメンバーや部下は迷いなく行動できます。また自主的な行動を促すためには、企業の理念やビジョンと部署やチーム、あるいは個人の目標の関連性を説明できることが大切です。

意思決定力

マネジメント担当者は、意思決定をする場面が多々あります。特にトラブルが発生した場合は、迅速かつ柔軟な判断が求められます。リーダーとして信頼を得るためには、意思決定に統一性や論理性があることです。

人材育成マネジメントに役立つ6つの資格

次に人材育成に役立つ6つの資格を説明しましょう。

  1. キャリアコンサルタント
             
  2. メンタルヘルス・マネジメント検定試験
             
  3. 中小企業診断士
             
  4. PMP         (Project Management Professional)
             
  5. 経営学検定試験(マネジメント検定)
             
  6. ビジネスマネージャー検定

キャリアコンサルタント

キャリアコンサルタントは、労働者の職業設計や職業能力を開発あるいは向上するための知識を証明する国家資格です。個人個人の適性や能力に合ったキャリア形成の提案やサポートをします。社員との面談は重要なマネジメント業務の一つです。社内の人材育成においてもキャリアコンサルタント資格の知識は大いに役立つでしょう。

メンタルヘルス・マネジメント検定試験

労働者の心的不調の改善および防止に関する知識を証明する公的資格ですメンタルの健康管理だけでなく、働きやすい職場環境づくりも含まれます。精神面のトラブルを抱える労働者は増えており、多くの企業がメンタルヘルス・マネジメントを重要だと考えています。人材育成においても、対象者の悩みや不調に寄り添うことができるでしょう。

中小企業診断士

中小企業の経営診断と助言ができると証明する国家資格で、経営課題を発見し、戦略や施策のアドバイスや支援を行う経営コンサルティングの知識が得られます。人材育成マネジメントは人材育成を通して経営課題を解決することが目的ですから、中小企業診断士の知識は有用です。

PMP (Project Management Professional)

プロジェクトの計画、管理、進行をリードし、トレーニング、評価、対外対応、リスク管理なども含め全体をコントロールする高いプロジェクトマネジメント能力を有すると証明する民間資格です。

経営学検定試験(マネジメント検定)

一定以上の経営管理能力や課題解決能力を有すると証明する民間資格です。「初級(新入社員向け)」「中級(マネージャー向け)」「上級(経営幹部向け)」の3つに分かれており、担当者の知識レベルに応じて選べますが、マネジメントに関する科目は中級に含まれています。

ビジネスマネージャー検定

マネージャーに求められる知識を体系的に有すると証明する民間資格です。「マネージャーの役割」「人材や組織のマネジメント」「業務マネジメント」「リスクマネジメント」などの4分野があります。

まとめ

人的資源である自社の人材を育成することは、企業が競争力を高める上で非常に重要ですが、昨今の少子高齢化による人材不足を受け、最早最優先の課題となりつつあります。人材育成マネジメント全体を包括的に解説したこの記事でわかることは、以下の通りです。

  •         
            人材育成マネジメントの目的、目標
             
  •         人材育成マネジメントの課題
             
  •         人材育成マネジメントの手法
             
  •         人材育成マネジメントに必要なスキル、役立つ資格
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