企業が目標を達成するためには、戦略的な取り組みが必要です。社員が共有できる指標として中間目標指標(KPI)を取り入れることは非常に有効で、様々な企業、部門で実践されています。今回の記事では、KPIの成功事例をご紹介すると同時に、KPIの成功法則とも言えるSMARTの法則についても解説します。この記事で主に取り上げる内容は、次のとおりです。
- KPIとは
- KPIに必須のSMARTの法則とは
- KPI事例集(部門別・企業事例)
KPIとは
KPIとは、「Key Performance Indicator」の略称です。日本語では、「重要業績評価指標」となります。
最終目標までの途中の各プロセスが適切に進んでいるかどうかをみるための中間目標指標です。
KPI設定における「SMART」の法則とは
KPIを設定するときに重要なポイントとされているのが「SMART」の法則です。SMARTは、次の5つの単語の頭文字を取ってできています。
Specific:具体的な
Measurable:計測可能な
Achievable:達成可能な
Relevant:関連性のある
Time-bounded;期限の定められた
この5つの要件を満たすことこそがKPI成功の秘訣です。
KPI成功事例を紹介
企業の数だけKPIがある。こう言われるKPIですが、やはり他社の成功事例というのは参考に値します。またKPIマネジメントに慣れていない場合は、まずは標準的な知識や視点を持つことが大切でしょう。ここでは、KPIが活用されている主な部門ごとのKPI設定例と、KPI分析・マネジメントに成功した企業の事例をまとめてご紹介します。
KPIの使用例
KPIは幅広い業種や職種で活用されていますが、業種で言えば、IT 系、コールセンター、製造業、職種で言えば、営業、マーケティング、システム開発の分野で KPI が重視されています。どのようなKPIがそれぞれの場所で設定されているのかをまず見ていきましょう。
営業のKPI
営業部門の代表的な KPI には、次のものがあります。
- 新規顧客へのアプローチ数
- アポイント件数
- 新規提案からの受注率
- 新規提案件数
- 成約率
- 新規受注件数/社数/金額
- リピート率
- 既存顧客への接触率
- クレーム数
- リードタイム
- 平均受注単価
営業部門のKPIは個々の営業成績を可視化することができるので、次のようなメリットがあります。
- 業績に応じた公平な人事評価
- 従業員のモチベーション向上
- 目標達成できなかったときの原因特定が容易になる
マーケティングのKPI
マーケティングの主なKPIとして次のものが挙げられます。以下です。
- 新規顧客獲得数
- 新規顧客の獲得単価
- マーケティング費用に対する売上効果
- 新規商談数
- 商談単価
- 顧客満足度
- リピート率
WEBマーケティングであれば、次のKPIも重要です。
- PV数(ページビュー数)
- CVR(コンバージョン率)
- 顧客単価
- メルマガ開封率、クリック率
- PV数(ページビュー)
- CVR(コンバージョン)
- UU数(ユニークユーザー数)
- 検索結果での表示回数
マーケティングでKPIを設定するメリットは、下記のとおりです。
- KGI(最終目的)達成に向けた逆算がしやすくなる
- 目標に達しないときには、顧客単価から必要な客数を逆算し、ギャップを埋める策を立てることができる
- KPIの達成率から、マーケティング施策の不足点や改善点を発見できる
総務のKPI
KPIは具体的な数値指標であることから何かを「作る」「売る」場面で有効という印象が強く、総務などの間接部門は評価が難しいと言われます。しかし、例えば人事部門では次のようなKPI総務の仕事もKPIを設定できます。
- 採用人数とコスト
- 求職者数
- 面接数
- 内定辞退率
- 離職率
- 採用者の平均在職期間
- 従業員の満足度やエンゲージメントのスコア
- 資格保有者数
- 特定試験の平均スコア(TOEICなど)
- 研修の満足度とコスト
- 育成プラン達成度
人事部門でKPIを設定するメリットは、次のとおりです。
- 曖昧になりがちな評価基準が明確になる
- 社員のモチベーション向上
財務のKPI
財務の主要なKPIの例として、下記のものがあります。
- ROE(自己資本利益率)
- ROA(総資産利益率)
- 当座比率
- 固定比率
- 棚卸資産回転率
- 固定資産回転率
財務でKPIを設定するメリットは、次のとおりです。
- 会社全体の現状を把握できる
- 財務は全社的な意思決定をしなければならないが、合理的に行える
システム開発のKPI
システム開発部門の代表的なKPIには次のようなものがあります。
- エラー件数
- テスト終了件数
- 標準化率
- 進捗率
- 稼働率
システム開発での KPI活用は下記のメリットをもたらします。
- 製品の品質確保
- 納期遵守
スケジュール遵守と品質維持の狭間で最適解を求められる開発部門にとって、KPI は必須です。
製造業の KPI
製造における代表的なKPIには次のようなものがあります。
- 労働生産性
- 生産量
- 品質率
- 材料使用率
- 総合設備効率
- ライン編成効率
- 稼働率
- 不良率
- 事故発生件数
- 危険物質廃棄率
製造で KPI を設定すると次のようなメリットがあります。
- 生産性の向上
- 部品や原材料の無駄を減らす
- 作業環境の安全性確保
企業別KPIの成功事例
次にKPI分析・マネジメントに成功した企業をご紹介します。
日本航空(JAL)のKPI
JALは2010年に経営破綻しましたが、その後に劇的なスピードで事業再生を成功させました。KGIを「顧客満足度を高めること」とし、その達成のためには「各便が定時到着していることが重要」だとして、KPIを「定時到着率」に設定しました。「最高のバトンタッチ」というキーワードのもと、定時運航を目指し、情報収集への注力、全員での機内清掃、手荷物搭載計画による時間短縮など業務改善を行いました。業績がV字回復したのみならず、2015年には、米国FlightStats社より「定時到着率世界一」の称号を獲得しました。
サイゼリヤのKPI
サイゼリヤは、独自のローコストオペレーションによる低価格で知られています。このローコストを支えているのが、徹底した生産性の向上です。KGIの「コストパフォーマンスに優れた料理の提供を通じた各店舗の売上アップ」を達成するためには、「1人の1時間の生産性が圧倒的に高い状態を作る」ことが重要と考え、個々の従業員が1時間で生み出す粗利益を示す「人時生産性」をKPIといて設定しました。これによって、人時生産性の業界平均が3,000円程度であるにもかかわらず、サイゼリヤの人時生産性はそれを大きく上回る4,000円となっています。今後の目標は6,000円です。
ハウステンボスのKPI
長崎ハウステンボスは、創業以来18年間、巨額の赤字を重ねてきましたが、2010年にHISが経営権を取得し、初年度で黒字に転換させました。「来場者数の増加」というKGIを実現するためには、「多くの『ここにしかないイベント』が開催できている状態」が重要と考え、KPIに「『オンリーワン・ナンバーワン』のイベント展開数」を設定しました。実際に、「花の王国」「光の王国」「ゲームの王国」「音楽とショーの王国」「健康と美の王国」「ロボットの王国」の王国シリーズや、日本初のロボットホテル・ロボットレストランなど、さまざまな話題性抜群のイベントを展開し、入場者数は140万人から300万人以上にV字回復しました。
AmazonのKPI
大手ショッピングサイトのAmazonは2002年に営業黒字化したものの、営業利益は低水準のままです。一方で、営業キャッシュ・フローは飛躍的に増加しています。このからくりは、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」と呼ばれるAmazonの「資金のKPI」にあります。これは「会社が原材料や商品の仕入などへ現金を投入して在庫になり、それを販売してから最終的に現金化されるまでの日数」を示した指標です。このCCCが小さいほど資金効率は良いのですが、AmazonのCCCは平均マイナス30日で、商品の仕入れ代金を支払う約30日前には商品の代金を受け取っているという計算になります。製品が売れれば売れるほど、資金が多く手に入るのです。
メルカリのKPI
メルカリもAmazon同様に、資金のKPIで成功しています。メルカリでは、購入者が支払った代金がメルカリに入金され、そこからメルカリの手数料を差し引いて残金を出品者に支払います。このとき、一時的にメルカリに入金される金額は、貸借対照表上、預り金として計上されます。この預かり金をCCCに当てはめると、預り金の回転日数は約45日になります。つまり取引成立後に購入者からメルカリへ数日で入金される一方で、そのお金をメルカリが出品者に対して支払うのは約45日後なのです。メルカリは「運転資本がマイナス」の状態で、事業拡大をすればするほど資金が減るどころかお金が増えます。
まとめ
今回はKPIの事例を紹介しました。KPIのメリット、必要性、策定方法までは多くの記事でも紹介されており、比較的理解しやすいと思いますが、実際の事例や運用となるとイメージが湧きにくいという方も少なくないでしょう。またKPIは組織の数だけ種類があるとも言われ、自社にとってどのようなKPIを設定するべきかが思い浮かばないという声もあります。今回ご紹介したKPI事例が、KPI策定のヒントになれば幸いです。
この記事でわかることは次のとおりです。
- KPIとは
- KPIに必須のSMARTの法則とは
- KPI事例集(部門別・企業事例)
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