企業は競争に勝ち抜くため、また経営目標の実現のため、方針や計画を立てます。しかしながら一企業が有する経営資源(ヒト、モノ、カネ)は有限です。そこで企業の経営戦略部などでは、企業の目標や目的と照らし合わせながら選択と分配を行い、目標実現のための体制を作ります。これを経営戦略といいます。この記事では、経営戦略について次の点を解説します。
- 経営戦略とは
- 経営戦略の定義
- 経営戦略と事業戦略、競争戦略、企業戦略とはどう役割が異なるのか
- 経営戦略の種類と分類
- 戦略策定の際に役立つフレームワーク
- 経営戦略の成功モデル
経営戦略とは
経営戦略とは序文でご紹介した通り、企業において、その事業体が経営目的を達成できるようにするための方策全般のことです。中でも全体の活動の方向となる指標や、また方向づけられた活動を実現できるようにするための体制づくりなどを指します。そこには企業が保有する経営資産を活用する必要があります。その経営資産である「ヒト、モノ、カネ」を上手に活用し経営目的を達成して利益を出していくことが企業のありかたです。この一連の経営目的を達成していく流れを経営戦略と言います。
この経営戦略は利益を求める民間企業だけではなく、行政やNPO法人などといった非営利組織にも必要不可欠なものになっております。
経営戦略の定義
経営戦略とは、英語の「management strategy」から来ている言葉で、冒頭に述べた通り、企業が経営目的達成のために策定する計画や方策全般を指します。企業全体のビジョン、方針、組織体制作り、財務方針など、複数の面があります。この「戦略」は、民間企業だけでなく行政や非営利団体など組織活動全てで求められる経営学です。分かりやすい例として、日本の国政をイメージしてみましょう。内閣の大きな方針であるマニフェストに沿って、各省庁、地方自治体など行政機関が政策や活動を分担、実現します。この「マニフェスト」の部分が経営戦略に当たります。
経営戦略と事業戦略、競争戦略、企業戦略、経営戦術、経営計画、戦略経営との違い
経営戦略、事業戦略、競争戦略、企業戦略、経営戦術、経営計画、戦略経営…、早口言葉のようになってしまい、混乱を招きそうですが、それぞれ違いがありますので、順に簡単にご説明します。(なお、今回は、最もよく聞くであろう経営戦略のお話です。)
経営戦略と事業戦略の違い
経営戦略は全社的な戦略で、社内の複数の事業ドメインにまたがります。組織体制や人事などがその例です。一方、事業戦略は、単一の事業ドメインについての戦略です。つまり経営戦略を事業部レベルにおろして具体的な戦略を練るのが事業戦略です。
経営戦略と競争戦略の違い
競争戦略はライバルに対し、価格や商品で差別化することで勝とうとする考え方です。経営戦略は「ではその変化に事業をどのように合わせていくか」という手段です。
経営戦略と企業戦略の違い
経営戦略は、対象や範囲によって、企業戦略、上で述べた事業戦略、機能戦略の3つに分けられます。企業戦略は全体戦略ともいい、事業の撤退や新規参入も含めたトップの判断のための戦略です。別名「成長戦略」とも言います。機能戦略は、現場レベルのヒトとモノの活用についての戦略です。
経営戦略と経営戦術・経営計画の違い
経営戦略の策定では、企業目標を達成するための大まかなプロセスを決めます。経営戦術の策定では、経営戦略で決めたビジョン、事業ドメイン、各ドメインの役割、経営資源の配分に基づいて、より具体的な施策を組み立てます。経営計画も同様です。
経営戦略と戦略経営の違い
語順を逆にしただけ、ではありません。意味は全く異なります。戦略経営は「戦略」「戦術」ではなく、経営のやり方です。目的とする経営を行うための戦略(を策定すること)が経営戦略。戦略的に経営をすることが、戦略経営です。
経営戦略の種類
経営戦略には企業戦略(全社戦略)、事業戦略、機能戦略の3種類があることは既にお話しました。経営戦略の段階を理解を深めるために、この3種類について、もう少し詳しく見ていきましょう。
企業戦略(全社戦略)
企業全体の方向性を決めるトップ判断の戦略です。新規事業参入、注力する事業の選択、今後の目標、あるいは事業からの撤退など、会社全体の今後を定める中長期的戦略になります。単一事業であれば、企業戦略と事業戦略は同じですが、多角的営業を行っていれば、企業戦略に基づいて、それぞれの事業や部門の事業戦略が定められます。注力する事業ドメインを決定し、競争手段や資金調達・配分を決め、それによって企業全体の成長を見込みます。
事業戦略
大企業は、経営戦略部門となる社長直下の部門と現場との間に、複数のセクター(事業本部)や下位組織、関連会社などが存在します。それらが、事業レベルの戦略を立てます。これが事業戦略です。事業内で利益を産むために、ビジネスモデルを構築したり、競合他社に勝つための戦略を立てます。
機能戦略
事業戦略を受け、各現場で方向性を決めます。企業の代表的な部門として、生産開発、マーケティング、営業、人事が挙げられますが、生産開発部門の機能戦略は生産戦略、マーケティング部門ならマーケティング戦略のようになります。
経営戦略の分類
上記は、企業組織のどの段階での戦略かによっての分類です。他にも、対競合企業という視点から経営戦略を分類することもできます。価格戦略、差別化戦略、集中戦略の3種類です。
価格戦略(コストリーダーシップ戦略)
ライバルに対し、次のような方法で、価格競争において優位に立つことを目指す経営戦略です。
- 原料コストの見直し
- 販路拡大
- 社員をアルバイト・パートに置き換えることによるローコストオペレーション
しかしながら価格戦略は見誤ると減益や赤字のリスクがあります。この戦略を成功させるには、企業規模や資金力の大きさと、コスト管理の徹底が必要なので、資金力に余裕のない中小企業や起業間もない企業には向いていません。
差別化戦略(付加価値戦略)
差別化によって、ライバル企業の優位に立つことを目指す経営戦略です。ハイブランドが代表的です。商品のストーリー性、希少性によって顧客にとって魅力的な価値を商品に付加する手法は、SNSによるマーケティングが大変大きな力を持つ昨今、資金力で劣る中小企業やスタートアップ企業にも可能な戦略です。
集中戦略
地域や顧客といったターゲットを絞り、経営リソースを投入する戦略です。
策定の際に役立つフレームワーク
企業の経営企画・M&A、ファイナンスといった経営戦略のコアを担うのが経営戦略部です。コロナの影響で、世界中の多くの企業が経営戦略の大幅な修正や変更を余儀なくされました。経営戦略策定時には、「フレームワーク」と呼ばれる経営戦略策定ツールが使われます。フレームワークを知ることで経営戦略の立て方や流れが理解できますので、説明します。
フレームワークとは
フレームワークとは、汎用的な意思決定、分析、問題解決、戦略立案などの枠組みのことです。経営戦略関係の話は専門的な用語や英語が多く、このフレームワークも難しく感じますが、「やり方」「マニュアル」「ルール」このように言えば、どなたも今までの仕事、活動、学習などで多かれ少なかれ取り入れている考え方です。フレームワークの種類と代表的なツールには、次のようなものがあります。
ロジカルシンキングに向くフレームワーク
論理的思考に優れたロジックツリー(logic tree)
ロジックツリーは、問題や課題を分解し、問題の全体像を掴んだうえで、解決策を導くためのフレームワークです。木が枝分かれして小さな葉をつけているイメージで、物事を分け、思考を整理します。
- 本質的な課題は何か
- 改善するためには何が必要か
- 優先順位
モレなくロジカルに正確な判断を導くMECE(ミーシー)
複雑な問題について考える時に、モレがないようにすることで正確な判断を導きます。MECEとは英語のMutually Exclusive and Collective Exhaustiveの略称で「モレなく、ダブりなく」という意味です。ロジカルシンキングの代表的なフレームワークの一つです。
その他のロジカルシンキングに向くフレームワーク
- ピラミッドストラクチャー
全体像を把握するのに適したフレームワーク
全体像から強みと弱みを把握するバリューチェーン
ビジネスの全体構造から、強みと弱みを把握するフレームワークです。企画からユーザーに届くまでの段階ごとに、3W1HのTo Doを整理できます。
Who 誰が
What 何を
When いつ
How どのように
9つの重要要素を整理してビジネス全体像を可視化するビジネスモデルキャンパス
KP パートナーとの関係
KA 主な活動
KR 主なリソース
VP 顧客にもたらす価値
CR 顧客との関係
CH チャンネル
CS 顧客セグメント
CS コスト構造
RS 収入の流れ
ビジネスにおけるこれらの9つの重要な要素を1枚のシートに整理し、複雑な要素を分かりやすく可視化します。
市場分析に向くフレームワーク
市場分析の代表格3C分析
自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の3つの関係性から現状を分析します。
内部要因と外部要因の両方を分析するSWOT分析
内部とは自社、外部とは競合やその他の影響です。
自社の強み(Strength)
自社の弱み(Weaknesses)
外部要因の機会(Opportunities)
外部要因の脅威(Threats)
この4つを総称してSWOTといいます。
マーケティング戦略の課題を洗い出す4P分析
商品(Product)
価格(Price)
販促(Promotion)
流通(Place)
この4つの点からマーケティング戦略を分析し、課題を洗い出すために使用するフレームワークです。
その他の市場分析に向くフレームワーク
- パーセプションマップ
- フォース分析
- RFM分析
- カスタマージャーニーマップ
- PEST分析
- VRIO分析
戦略立案に適したフレームワーク
マーケティング戦略組み立てのためのSTP分析
セグメント化(Segmentation)
ターゲット選定(Targeting)
ポジション取り(Positioning)
これらの観点から戦略を策定します。
近年話題のAARRRモデル
商品やサービスを成長させることを目的にしたフレームワークで、近年、取り入れる経営戦略部が多く見られます。ユーザーの行動の変化を5つの段階に分け、課題を分析します。
ユーザー獲得(Acquisition)
利用開始(Activation)
継続(Retention)
紹介(Referral)
収益の発生(Revenue)
ネット時代に対応したAISAS
インターネットやSNSの普及によって変わった消費者の購買プロセスに着目したフレームワークがAISASです。
認知(Attention)
興味(Interest)
検索(Search)
行動(Actionl)
共有(Share)
その他の市場分析に向くフレームワーク
- クロスSWOT分析
- AIDMA
経営戦略の成功事例
これらのフレームワーク理論を活かした経営戦略の成功事例はいくつもあります。今回はその中から、ファストファッションチェーンのしまむらをはじめとした皆さんになじみのある企業を紹介します。
ファストファッションのしまむら
ファッションブランドやメーカーの強みは、ブランド力、デザイン、機能性、価格など様々ですが、購買層にとって、しまむらの最大の魅力はやはり安さです。しまむらのターゲットは、20代〜50代と幅広い年代の「主婦」です。そして徹底したコスト管理で商品の低価格を実現しています。コスト集中戦略の代表的な成功例です。
スターバックス
20年以上前に初めて日本に上陸した時、スターバックスは特別な場所でした。それまでの喫茶店やコーヒーショップにはなかったお洒落で外国風の雰囲気と高級感によって、コーヒーを飲むことを飲食からファッションに変えたと言われています。コーヒーの香りを損なわないため全席禁煙にしたり、コーヒーの専門職であるバリスタを配置するなど、他社との差別化戦略を進めました。
オリックスグループ
元はリース業からのスタートでしたが、今や銀行、生命保険、不動産、資産運用など多種多様な金融事業に拡大しました。オリックスグループの成功は、祖業であるリースのノウハウを自社の強みとして最大に活かしたことです。代表的な多角化戦略の成功例です。
まとめ
- 経営戦略とは何をするのか
- 経営戦略と事業戦略、競争戦略、企業戦略とはどう役割が異なるのか
- 経営戦略の種類と分類
- 戦略策定の際に役立つフレームワーク
- 経営戦略の成功モデル
この記事では、以上について解説しました。経営戦略について話す時、MBA経営戦略という言葉が出てきます。経営学であるMBAの考え方は、上記のフレームワークを経営戦略の基本としています。英語派生の専門用語が多く、一見とっつきにくい経営戦略ではありますが、重要用語、フレームワークモデル、理論の活かし方が理解できれば、思っているよりシンプルに答えを導くことができます。
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