経営理念の作り方ガイド!自社に合った理念の策定方法を解説

経営理念を策定し全社員で共有することは、企業としてランクアップするための通過点と言っていいでしょう。経営理念とは何か、わかりやすく言うと、経営者の哲学や信念に基づき、企業の根本となる活動方針を明文化したものです。 また、その企業が最終的に目指す理想像を明文化したものでもあります。 この記事では、経営理念について次の項目を解説します。

  • 経営理念とは何か
  • 経営理念の目的
  • 経営理念のメリット
  • 経営理念の作り方
  • 企業の事例
目次

経営理念について


経営理念は企業によっては社是・社訓・行動指針・企業理念・経営信条・経営哲学・ミッション・バリュー・ファイロソフィーと呼ばれることもあります。企業の経営者が考える、経営上の基本的な考え方で、その企業の活動の指針となる思想と言えます。経営理念には具体的に次のような特徴があります。

  • その企業の管理や運営についての考え方を示している。
  • 企業の創始者によって作られることが多く、創始者や経営者の価値観や信条が反映されている。
  • 社会に対し、担う役割も表明されている。

すなわち従業員にとって「会社が目指す理想」「全社で進んでいく方向」の指針になるだけでなく、「社会の一員として貢献しているという自尊心」「顧客満足への注力」「毎日のやりがい」を高める効果もあります。求められるのは、経営者の心の奥にある強い想いの明文化です。創業時に策定された企業理念は、経営者が変わっても受け継がれます。

経営理念の意味

経営理念がなければ事業ができないというわけではありません。しかしながら、経営理念のない企業には、指針がブレるという欠点があります。経営理念が明文化されていないと、経営者の普段の発言や、部分的に切り取り勝手に解釈した発言を、会社の方針だと勘違いしてしまうケースがあるからです。これはとてもリスキーです。企業風土の悪化、コンプライアンス違反といった問題の引き金になりかねません。

似た用語との違い

経営理念と混同されがちな言葉について、違いを説明します。まず、次の表を見てください。

経営理念企業の理想の経営のあり方
企業理念創業時から受け継がれてきた信条や考え
行動指針経営理念を具体化したもの
パーパス企業としての存在意義
ミッション企業が掲げる使命
ビジョンミッションの先にある将来的な企業の将来の理想像
バリュー組織に共通する価値観
クレド従業員が行動を起こす時の判断基準

企業理念との違い

経営理念と特に混同されやすいものとして、企業理念があります。「企業理念」というのは、働く全従業員が共有し、意思決定したり行動するときに基準とする「企業全体の基本方針」です。一方、「経営理念」は既に説明したように、経営者の価値観の明文化です。とはいえ、実際の現場では同じ意味で使われたり、厳密に区別されていないこともあります。

経営戦略との違い

次に、経営戦略とはどう違うのか考えてみましょう。経営理念は経営者の価値観や理想、信条が強く反映されます。そのため現状との相違が生まれてしまうことが少なからずあります。「経営戦略」は、そのギャップを埋めるための方法論で、次の3つのレベルで策定されます。

全社戦略:企業全体として、どの分野の事業を行うか、経営資源をどのように配分するかを決定する。

事業戦略:より具体的な事業展開を計画する。

機能戦略:それぞれの部署が、営業戦略、財務戦略、人事戦略のように自部署の視点から策定する。

経営理念の目的

経営理念を明文化し、社員に経営者の理念をわかりやすく伝える目的は、社員の理解を深め意識を高揚させることにあります。「社員を鼓舞して、業績を伸ばしたい」「社員には毎日イキイキと働いて欲しい」そう望む経営者は多いでしょう。経営理念といういわば「言葉」がなぜそのような効果を生み出すのか、2人の心理学者による説明をご紹介します。

ハーズバーグの2要因論

アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg)は2要因論を唱えました。その考えは、社員が自分の現状や仕事に満足するかどうかを決める「不満足要因」と「満足要因」があるというものです。給与が高ければ満足…と考えてしまいがちですが、実は給与はマイナスをゼロにするだけのもので、モチベーションをアップするには、自己肯定感に繋がる満足要因が満たされることが必要という考えです。

  1. 不満足要因
    経営方針・職場環境・対人関係・労働条件・給与待遇・福利厚生

これらの要因が満たされないと、従業員は不満を感じます。

  1. 満足要因
    達成感・承認・責任・昇進・成長

これらの要因が満たされると社員のモチベーションがアップします。

マズローの5段階要求

アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow)は5段階要求を主張しました。彼は「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定しています。その段階は「生命・生理的欲求」「安全・安定の欲求」「社会的欲求」「自我の欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層に分かれ、給与待遇や労働条件といった要因は最下層に近い「生命・生理的欲求」「安全・安定の欲求」にあたります。もちろん土台である「生活が保障される給与」や「健康的な労働時間」が満たされていなければ、優れた経営理念も絵にかいた餅でしかありません。しかしながら「人の役に立ちたい。」「自分の理想の姿を実現させたい。」といったより高次元の欲求を満たそうとするところに、人の成長があります。

経営理念のメリット

ここまで読めば、全社員に浸透する経営理念が重要であることはおわかり頂けたと思います。経営理念を持つことのメリットをまとめると、このようになります。

  1. 経営戦略の方向性や基準が明確になる
  2. 企業イメージをアピールできる
  3. 従業員のモチベーション向上

経営戦略の方向性や基準が明確になり、従業員をまとめることができる

企業の将来像や長期的な目標が示されるため、「何をするべきか」が明確になり、行動が起こしやすく業務が捗る。チームワークも発揮しやすくなります。経営陣との信頼関係も強くなります。また自社や自分たちの存在意義を全社員で共有できます。さらに、カリスマ的な創業者がいなくなった後も、経営理念が浸透した社員が引き継ぐことで、一気に総崩れになることが防げます。

企業イメージをアピールできる

企業内で伝統的に共有されている価値観や行動様式といった企業文化が育まれるため、優秀な人材の確保に繋がります。また社会全体における企業のイメージアップにも繋がり、企業ブランドによるイメージ戦略にも寄与します。

従業員のモチベーション向上

多くの企業の経営理念は、①どのように社会貢献するか、②社会人としての信頼、働き甲斐、公正な機会といった項目を打ち出しています。これにより、従業員は、自分がなぜ働くのか明確に意識でき、モチベーションの向上、成長に繋がります

経営理念がないことのデメリット

経営理念を作らないままにしておくと、上記のメリットと反対のことが起こるリスクがあります。

  • 個々人の考え方や価値観がバラツキ、統一感に欠ける。
  • カリスマ経営者が退陣すると、一気に崩れる。
  • 社風に合わない人を採用したり、採用した人が逸脱した振舞いを見せる可能性がある。
  • 明確な目標や信念がなく、従業員のモチベーションが低い。

浸透する経営理念を目指す

経営理念を明文化したとします。その内容がどれだけ崇高で素晴らしくても、社長室の壁の額に飾られているだけでは意味がありません。また就業規則のどこかに書いてあるけれど、従業員はよく知らない経営理念というのも、経営者の自己満足に過ぎません。大切なのは策定した後に、しっかりと社員に浸透させることです。そのためには次のような手法を行いましょう。

社長自ら経営理念を話す場を作る:「読んでおいて」と文書を渡すより、耳に入れるほうが効果的です。そして必ず経営者が自ら、自分の想いを社員に話すことが大切です。社員全員が集まる会議や、イントラネットを使ったブログ配信、社内報の社長インタビューなど、機会があるごとに情熱的に想いを伝えましょう。

経営理念を目に触れさせる:卓上カレンダー、クレドカード、社内報の表紙、壁、様々な場所で目にする回数が多いほど、嫌でも脳内に残ります。

報告会や査定において、経営理念の実践を評価する:経営理念を高らかに宣言しながら、経営理念に基づいた行動や業績が評価されないのでは、誰も本気で受け止めなくなるでしょう。経営理念に基づいた行動による成果、顧客満足事例、人事の定性評価など、報告し認められ評価される事例を増やせば、自然に自分も参加しようという意識が芽生えます。

経営理念の作り方

いよいよ、経営理念を作成に取り掛かりましょう。

経営理念の4つのポイント

経営理念を作るにあたって、重要なポイントは次の4つです。

  • 企業理念を深く読み解く。経営者の本心、伝えたいことを、齟齬がないようしっかりと読み取りましょう。
  • 企業の将来の姿を思い浮かべる。その未来に繋がる理念にする必要があります。
  • 誰にでも伝わる内容を心がける。難しい言葉や言い回しは必要ありません。
  • 何度も推敲する。

経営理念の4つの柱と5つの要素

経営理念は、次の4つの柱で成り立っています。

Mission(使命)
Vision(志)
Value(価値観)
Way(行動指針)

企業の理念をよく理解し、将来どんな企業にしたいかを考え、次にこの4つの柱に当てはめていきます。

  1. Mission(使命):経営者の目的を明確にし、従業員が使命として理解し受け止めるようにする。
  2. Vision(志):企業の将来像を具体的に描き、どう進めば実現できるのか、その方向性を定める。
  3. Value(価値観):企業活動における判断基準と価値観を決める。
  4. Way(行動指針):実現に向けた具体的な行動を示す。

そこで意識しなければならないのが、次の5つの要素です。

  1. 最も重要視するもの:品質、従業員、顧客、株主など
  2. 何を提供するか:商品、サービス、価値など
  3. どこに自社の立ち位置があるか:地域、日本国内、世界など
  4. 誰のために存在するか:業界のため、地域社会のためなど
  5. 理想の自社イメージ

どのような分野のどのような事業を展開していきたいか、従業員にはどのようなスキルや技術を持つ人材になってもらいたいか、社会に対し何をして貢献したいかを具体的に言葉にしていきます。経営活動の全ての源になるのが経営理念ですから、あやふや、曖昧にならないことが大切です。全従業員が理解し共有できるためには、キャッチコピーのように簡潔な文言が望ましいです。そして誰が見ても、目に耳にすんなり入り、腹にストンと落ちるものが出来上がるまで、何度も根気よく推敲することが大切です。手をかけ暇をかけ作成した経営理念が、時流や状況と合わなくなってしまうことも多々あります。必要な時は、社会や経済、自社の状況に応じて変えていくことも重要です。

経営理念の作成方法5つのステップ

経営理念は以下の5ステップで作成できます。

書き出す

上記で示した4つの柱と5つの要素について、思いつくことを書きます。いきなり洗練された文章をまとめようとせず、思いつくことを文字にします。

短くて伝わりやすい文章にする

経営理念は誰が読んでもわかりやすく、記憶に残るものにする必要があります。短くてわかりやすい文章にしましょう。

伝えたい順に並べ替える

複数の文章ができあがった場合は、最も伝えたいことを一番先に記載します。

同じ内容をいくつかの文章で書いてみる

同じ意味を持つ言葉は複数あります。どの言葉を使えば、理念を最も分かりやすく伝えられるか考えながら、色々な言葉や文章で表現してみましょう。以下の3つの点を変えるだけで、文章の印象はまるっきり違います

  • 漢字・ひらがな・カタカナ、どれを使うか
  • 意味がわかりやすいよう「、」の位置を工夫する
  • 文章全体にリズムが生まれるよう、改行してみる

人に見てもらう

経営理念は、長きにわたり様々な人の目に触れるものです。ですから必ず他の人に見てもらいましょう。判断してもらうポイントは内容ではありません。「一度見たら【意図】が伝わるか」を確認します。

経営理念の活用方法

経営理念を策定することは、企業が経営の方向性を明確にし、社員や顧客との共有を図るために重要なことです。しかし、経営理念を策定するだけではなく、実際にその経営理念を活用することが重要です。以下では、経営理念の活用方法について解説します。

社員教育

経営理念を社員に浸透させることは、社員の意識改革につながります。社員が企業の経営理念に共感し、自らの仕事に反映させることで、企業全体の方向性が明確になり、一丸となって目標達成に向けた取り組みができます。

売り文句やPR文に活用する

経営理念は企業のビジネスモデルを反映しているため、顧客にとって重要な価値観や理念を表しています。そのため、経営理念を活用した売り文句やPR文を作成することで、顧客に企業の価値観を伝えることができます

企業活動の方向性を決める

経営理念は企業活動の方向性を示すものであり、その理念に基づいた企業活動を行うことで、企業のビジネスモデルがより明確になります。また、経営理念に基づいた企業活動を行うことで、社員や顧客との信頼関係を築くことができます。

ブランドイメージを確立する

経営理念に基づいた企業活動を行うことで、企業のブランドイメージを確立することができます。経営理念に基づいた企業活動を行うことで、顧客に対して企業の信頼性や価値観をアピールすることができます

【実例】有名企業の経営理念

最後に皆さんもご存じのあの有名企業の経営理念をご紹介します。それぞれの経営者の熱い想いを読んで、皆さんが経営理念を作成する時の参考にしてください。

オリエンタルランド

東京ディズニーリゾートの開発・運営などを手がける株式会社オリエンタルランドは、全国的に知名度があり、就活生からの人気も高いです。その企業理念は、顧客の喜びや感動に寄り添ったものとなっています。

自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動
ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します。

ファーストリテイリング

今や日本どころか世界のアパレル製造小売業でもトップクラスの売上規模に成長したユニクロとGU。フリースから始まり、エアリズム、ヒートテック、ウルトラライトダウンなど数々の変革を起こしてきたユニクロは、サステナブルな社会の実現にも力を注いでいます。企業理念はこちらです。

服を変え、常識を変え、世界を変えていく

トヨタ自動車

日本の製造業の雄であり、最後の砦ともいわれるトヨタ自動車株式会社は、創業時から一貫して、自動車を通して豊かな社会を作ることを目指しています。自動車に関する事業活動に加えて、企業スポーツ活動を通して地域に貢献しているのも特徴です。

1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
2. 各国、各地域の文化、慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する

コメダ

コメダ珈琲の人気の理由は、居心地のいい空間です。それは次の経営理念が実現されているからです。

珈琲を大切にする心から通して、お客様にくつろぐ、いちばんいいところを提供します

三幸製菓

「食を通じての幸せ」にこだわり、「柿の種」や「雪の宿」など、世代を超えて人気のある菓子類を提供し続けている三幸製菓の企業理念は、次のようになっています。

お客・取引先・従業員と「三つの幸せの実現」

ニトリ

「お値段以上ニトリ」というキャッチコピーで有名なニトリですが、社員全員に共有されている企業理念はこちらになります。

住まいの豊かさを世界の人々に提供する

TOTO

私たちの生活に欠かせない水回りの技術と商品。海外に行くと、日本のそれがいかに優れているか痛感します。

愛業至誠(意味:奉仕の精神でお客様の生活文化の向上に貢献し、一致協力して社会の発展に貢献する)

JAL

従業員が「JALで働いていてよかった」と思えるような企業を目指さなければ、最高のサービスを提供することもできないという考え方のもと、下記を企業理念として掲げています。

全社員の物心両面の幸福を追求

ANA

お客様に安心を与えて信頼を得ることが何よりの企業責務という考え方から、次の企業理念を掲げています。

あんしん、あったか、あかるく元気!

スクウェア・エニックス・ホールディングス

「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの有力なコンテンツを使い、ジャンルにとらわれない幅の広いゲームソフトを積極的に開発しているスクウェア・エニックス・ホールディングスの企業理念はこちらです。

最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する

Google

使いやすく分かりやすい検索エンジン、メールアカウントなど、ユーザーのニーズに一致するさまざまな機能の提供は、こちらの企業理念に沿うものです。

世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする

Amazon

世界最大規模のECサイトにまで発展したAmazonは、近年、Amazonプライム・ビデオなど動画配信にも力を入れています。そのユニークな企業理念はこちらです。

地球上で最もお客様を大切にする企業を目指しています

Apple

Appleは経営理念がないことで知られています。スティーブ・ジョブズが残したたった一言「クリエイティブ」。個々の「枠にとらわれない自由な発想」を尊重する社風は、この考え方そのものです。

まとめ

経営者の理念と理想を明文化した経営理念の策定は、従業員の行動指針としてだけでなく、チームワーク、モチベーション、そして企業価値を高める効果があります。この記事では、下記について解説しました。

  • 経営理念とは何か
  • 経営理念の目的は指針の明確化
  • 経営理念のメリットは、従業員をまとめあげ能力を存分に発揮させることと、社会的イメージの向上
  • 経営理念の作り方をわかりやすく解説
  • 成功している企業の企業理念は、その企業の事業そのもの
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