経営分析のポイント。目的、効果、手法を完全解説

決算書や財務諸表などを分析することでわかる客観的な自社の経営状況を、経営に役立てる。これを経営分析と言います。経営分析の基本となる情報源は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー表などの財務諸表です。 ただし正確な判断をするために、経営分析は広い視野で行うべきです。この記事では経営分析について、次の項目を解説します。

  • 経営分析の目的と効果
  • 経営分析の項目と主な指標
  • 経営指標を活用するための4つのポイント
目次

経営分析の目的と効果

まず経営分析の目的をしっかりと理解しましょう。経営分析の目的は、次の2つです。

  1. 自社の現状が把握できる。
  2. 自社の問題点、弱点、改善点を見つけ、対策を立てることが可能になる。

経営分析を行うと、次のような効果があります。

  1. 客観的に、自社の強みと弱みを見ることができる。経営者のみでは、主観的な考えで固まってしまいます。経験や勘を活かした判断にも一理ありますが、複雑化した今の社会で、それだけで経営判断することは、リスクが高過ぎます。経営分析で算出する指標の客観性は非常に高く信頼性があります。正に「数字は嘘をつかない」といったところでしょうか。
  2. 経営計画の策定や見直しに役立つ。経営分析により強みや弱み、問題点を正確に把握できれば、経営計画の策定や見直しを実施しやすくなります。
  3. 投資可否の判断材料になる。企業側ではなく、金融機関や投資家の立場からは、経営分析によって当該企業への投資可否を判断できます。銀行であれば安全性、投資家であれば収益性や成長性の指標が投資の判断材料となります。

日常的、定期的な経営分析を行えば、自社の売上・利益、資金繰りの状態など、経営状態や資産状況を正確に理解できます。客観的な数値を可視化することで、営業数値の悪化の予兆や業績悪化のサインなどもいち早く察知し、適切に対処して回避することも可能になります。社会情勢の変化や経済の影響など不確定要素が多い中で会社を経営するには、定期的な経営分析が被害・影響を最小限にするために役立ちます。また既に問題点の予測がついている場合には、「この部門の売上が低く足を引っ張っているのではないか」「人材配置が最適化できていないのではないか」といったように疑問に応じた分析も可能です。

ただし、財務諸表などはあくまで過去のデータを分析することになります。また資料の作成から分析完了までの期間に社会情勢や経営状況が大きく変わることも、ないとは言えません。優秀な分析手法ではあっても、今この瞬間に対して一定のタイムラグが生じる以上、万能ではないことは理解が必要です。

 経営分析の基礎知識

経営分析には、会計・財務についての最低限の知識があることが前提となりますので、基礎知識をここでまとめておきたいと思います。経営分析をするなら、財務諸表について知っておく必要があります。財務諸表とは一定期間の経営成績や財務状態を表す資料です。このうち経営分析で使われる財務諸表は、次の3つです。

  • 賃借対照表
  • 損益計算書
  • キャッシュフロー計算書

賃借対照表

ある時点で会社が持っている資産・負債・純資産の項目および金額が記入された財務諸表のことです。会社に関わるお金の流れのうち、ストックの部分を示します。

損益計算書

損益計算書とは、ある期間内における会社の収益と費用の項目および金額が記された財務諸表です。会社に関わるお金の流れのうち、フローの部分を表します。経営分析では、売上高・受取利息などを「収益」、買掛金・支払利息などを「費用」とします。

キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書とは、一会計期間の会社におけるキャッシュの増減を示したものです。キャッシュとは、現金および現金同等物のことです。キャッシュフロー計算書を見ると、会社にどれくらいのお金があるのかがわかります。

経営分析の5つの項目と主な重要指標

経営分析を効果的に行うため、財務指標を分析して客観的に現状を把握します。財務分析は、「収益性」「安全性」「生産性」「活動性」「成長性」の観点から行うことができます。

収益性分析

収益性とは、会社の稼ぐ力を計るための指標です。少ないコストで効果的に売り上げを上げると、収益性に関する指標が高くなります。コストが小さければ不況時にも強く、生産性が高いと判断されれば資金調達時にも有利です。収益性はビジネスの根幹と言える部分ですので、指標が悪い場合は速やかな対策が必要です。

収益性に関する指標は、次のように損益計算書の「売上高」と各「利益」を比較し計算します。

売上高総利益

売上高総利益は総売上額から原価を差し引いた利益です。「粗利益」とも呼ばれます。売上高総利益率は粗利益が売上高に占める割合で、「粗利益率」とも呼ばれます。この数値が高いほど稼ぐ力、つまり収益性があるということです。この指標が対前年比で下落している場合、仕入原価や製造原価などのコストが上昇していると思われます。原因を探って対策を立てる必要があります。

売上高総利益率(売上総利益÷売上高×100)

売上高営業利益率

売上高に対する営業利益の割合を表す指標です。営業利益は営業によって稼いだ利益なので、この指標が高ければ「本業で稼ぐ力」が高いと言えます。この指標が低いと本業ではあまり稼げていないということになりますので、大幅な経営改善が求められます。

売上高営業利益率(営業利益÷売上高×100)

その他の指標

ROA:経常利益/総資本

資本に対する売上の大きさを示し、高いほど良い。

ROE:当期純利益/自己資本(株主総資本)

株主資本の活用度を示し、高いほど良い。

棚卸資産回転率:売上高/棚卸資産

高いほど資産の運用効率が良い。

売上債権回転期間:売上債権/売上高

代金回収までの期間を示し、低いほど良い。

有形固定資産回転率:売上高/有形固定資産

有形固定資産の活用度を示し、高いほど良い。

売上高経常利益率:経常利益/売上高

総合的な利益率を示し、高いほど良い。

売上高販管費率:販管費/売上高

低いほど経営効率が良い。

損益分岐点売上高:固定費/限界利益率

収支が0になる売上高のこと。

安全性分析

安全性分析とは、会社の「負債と資本」について構成や比率を確認することです。「支払い能力」や「財務の安定性」といった経営の健全性を計り、借金の返済能力を分析します。なお、単純に負債があるから「経営状況が悪い」わけではないことに注意が必要です。安全性は確かに高いかもしれませんが、負債を一切しない会社は経営が非常に保守的である可能性があります。確認しなくてはならないのは、返済能力とのバランスが適正かどうかです。

流動比率

流動比率は「現金もしくはすぐに現金化できる資産(当座資産、棚卸資産)」と「すぐに支払わなければならない負債(売掛金、受取手形)」の割合です。短期的な会社の支払い能力を測る指標となります。不良売掛金や長期間動かない在庫などがあると数値が下がります。流動比率が200%を超えていれば、堅実な経営とみなされます。

流動比率(流動資産÷流動負債×100)

自己資本比率

総資本に対し、返済する必要がない自己資本がどれだけあるかを示す指標です。比率が低いと他人の資本が多いことになり、突発的な支払いが発生すれば資本が不足してしまう懸念があります。融資の審査でも、自己資本比率が高いと安全と見做され有利になります。注意するべき点は、一見指標が高くても過去から徐々に減少し続けているケースです。

自己資本比率(自己資本÷総資本×100)

その他の指標

当座比率:当座資産/流動負債

短期的な返済能力を示す指標の1つで、高いほど良い。

固定比率:固定資産/自己資本

固定資産に使われた資金が、自己資本でどれほど賄われているかを示す。低いほどよく、100%以下が望ましい。

生産性分析

生産性分析とは、売上額を向上させるために会社のリソースである「ヒト」「モノ」「カネ」を有効に活用しているかどうかを判断する指標です。「社員1人当たり」「設備1つ当たり」「資金1,000万円当たり」などさまざまな指標があります。

労働生産性

労働生産性は、従業員1人当たりが生み出す成果を計る指標です。業界や会社によって算出方法が異なりますが、起業を考えている方が知っておきたいのは、中小企業で一般的に使われる「売上高-外部から購入した費用(原材料費、外注加工費、機械の修繕費、動力費など)」の計算式です。数値が高いほど従業員のパフォーマンスが高く、数値が低いと人材をうまく活用できていないか長時間労働が状態化している恐れがあります。

労働生産性(付加価値÷従業員数×100)

この計算式の「付加価値」とは「労働による対価」を指します。

従業員数は2期の平均値を用いることが多いです。

資本生産性

資本生産性は、投入した資本金に対しどれだけ付加価値が生じているかを計る指標です。数値が高いほど、投下した資本が高い付加価値を生みだしていると言えます。多額の資本を投入しているのに数値が悪い場合は、資本投入を見直す必要があると言えます。

資本生産性(付加価値額÷総資本×100)

その他の指標

労働分配率:人件費/付加価値額

付加価値に対する人件費の割合で、低いほど良い。基本的には40〜60%が良好とされているが、具体的な適正値は企業規模や業種によって異なる。

活動性分析


活動性とは売り上げと資本を見て、資本が有効に使用されているかを計る指標です。企業活動とは、自社が持っている資本を効率的に使って売り上げを上げ利益を得ることですから、会社経営の最も大事な部分を見極める指標だと言えます。資本を効率的に使い、多くの売上をあげているほど活動性が高いと言えます。

総資本回転率


資本回転率は、資本が期中に、売上として何回回収され再投資されるかを計る指標です。売り上げが総資本と同じなら1回転、総資本の2倍なら2回転とし、回転数が多いほど、少ない資本で多くの売上をあげているということになります。社内での推移や同業他社との比較によって、客観的に評価することができます。

資本回転率(売上高÷総資本×100)


総資本は当期・前期末平均で考えます。

固定資産回転率

固定資産回転率は、売り上げを用いて固定資産を無駄なく活用できているか計る指標です。指標が低い場合は、設備投資が過剰である、または固定資産が有効に活用されていないと判断されます。固定資産は金額が大きい支出なため、無駄がないようしっかりとチェックしたい項目です。

固定資産回転率(売上高÷固定資産×100)

ここでの固定資産は当期・前期末平均で考えます。

成長性分析

成長性分析とは、会社の売上や利益の変化を確認することで「成長性」を計る指標です。

売上高増加率

前期に対していくら売上高が伸びたかという指標です。プラスであれば「成長」、マイナスであれば「衰退」で、原則、指標は高いことが望まれますが、あまりに高い場合は急成長による弊害も起こりうるので注意が必要です。

売上高増加率(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

利益増加率

前期の経常利益と比較しどれだけ増加または減少したかを知るための指標です。数値が高い方が会社は発展しています。数値が低い場合や、数値は低くないが前期より小さくなっている場合は改善が必要です。

経常利益増加率(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100

その他の指標

総資産増加率:総資産増加額/基準時点の総資産残高

企業の総資産がどれほど増えたかを示し、高いほど良い。

純資産増加率:純資産増加額/基準時点の純資産残高

企業の純資産がどれほど増えたかを示し、高いほど良い。

従業員増加率:(当期従業員数-前期従業員数)/前期従業員数

企業の従業員数がどれほど増えたかを示し、基本的には高いほど良い。しかし、設備を導入した結果従業員を削減するなどのケースもあるため、一概には言えない。

EPS:当期純利益/普通株式の期中平均発行済株式数

一株あたりの利益額を示す。高いほど企業の収益力が強いことを意味する。

経営分析による事業改善事例

経営分析は、事業改善において非常に重要な役割を果たします。経営分析を行うことで、現状把握や問題点の発見、将来予測などが可能になります。今回は、経営分析によって行われた実際の事業改善事例を紹介します

財務分析による収益改善

ある小売店が、売上高の増加にもかかわらず、利益が改善されていないことが課題となっていました。そこで、財務分析を行い、原価率や人件費率などのコスト構造を分析し、無駄なコストの削減を行いました。また、高収益商品の割合を増やすことにより、利益率を向上させることに成功しました。

顧客満足度調査による売上増加

あるサービス業では、競合他社からの顧客離れが課題となっていました。そこで、顧客満足度調査を実施し、問題点を把握しました。その結果、サービスの質の向上や商品の改善などを行い、顧客満足度が向上。これにより、口コミやリピート購入によって売上が増加し、競合他社との差別化に成功しました。

生産性向上による効率改善

ある製造業では、生産ラインの効率が課題となっていました。そこで、生産ラインの改善を行うために、従業員の動きをビデオ撮影し、分析を行いました。その結果、無駄な動きや作業があることがわかり、改善を行うことで生産性を向上させました。また、製品品質の向上にもつながり、顧客からの信頼度が高まりました。

以上、経営分析によって行われた実際の事業改善事例を紹介しました。経営分析は、課題解決に大きく貢献するため、経営者にとって必要不可欠な手段と言えます。

経営指標を活用するための4つのポイント

正しい数値の財務諸表を準備

どれほど時間をかけデータの収集・整理・分析を精密に行っても、基のデータが間違っていれば、分析結果も間違ったものになり、そこから下した経営判断も的外れなものになり経営に悪影響が生じかねません。やり直しとなればタイムロスや担当者の負担にもなります。正しい数値が入力されているかの確認を徹底し、正確な財務諸表を用意しましょう。

自社に合った指標の選定

経営分析にはさまざまな方法や指標があります。企業の規模や業種、自社の課題や状況に合った分析方法を選択すれば、効率的に経営分析が行えます。そのどれを選ぶべきかはによって異なるため、自社に適したものを考えることが大切です。

利用する指標は絞る

より精度が高い経営分析をしようと、多数の指標に手を出すことはおすすめできません。指標の算出のための時間のロスだけでなく、算出することがゴールになってしまい分析がおろそかになってしまう傾向があります。自社に必要な指標や重視したい重要な指標に絞ることが大切です。重要な分析は時間をかけて徹底的に行いましょう。

BIツールの活用

経営分析に必要なデータをエクセルで管理している企業はまだまだあります。しかしエクセル管理では手作業に手間がかかります。分析や経営判断に充分な労力を割くためには、経営分析の専用ツールや、経営分析機能を備えたBIツールを活用していくことを勧めます。連携した他システムから自動でデータ収集し、資料を作成してくれるので、これまでのデータの管理体制を根こそぎ変更する必要はなく、利便性高められます。

まとめ

自社の経営状況を正確に把握するためには、客観的な分析が欠かせません。経営分析は、決算書や財務諸表のデータを客観的指標を用いて数値化することで、自社の強み、弱み、問題点などが明白になります。この記事では、次の点について解説しました。

  • 経営分析の目的と効果
  • 経営分析の項目と主な指標
  • 経営指標を活用するための4つのポイント
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