経営課題の見つけ方 分析にはフレームワークが有効

現在のビジネス市場は目まぐるしく変動しています。そのため企業は絶え間なく、多種多様な経営課題を抱え、生き残るためにそれらに対応する必要があります。とはいえ、企業の従来の業務に加え、経営課題を見つけ対応することは大仕事です。自社に問題があることはわかっていても、何が原因なのか正しく把握できていない、或いは具体的にどのように対策をすれば改善できるのかがわからないという経営者も少なくありません。この記事では【経営課題を見つけて取り組む】ことを念頭に、次の点について解説します。

  • 経営課題が生まれる原因
  • 経営課題の事例
  • 最も多い経営課題、現在、3年後、5年後
  • 経営課題の見つけ方
  • 経営課題の解決法
目次

経営課題とは

経営課題とは、企業が目指しているミッション、ビジョンと現状にギャップが生じている際に、その差を埋めるために設定されるものです。いわば理想と現実の差を埋めるために解決しなければならない「障壁」です。

経営課題が生まれる原因

経営課題は、主に次の3つの要因から生じます。

  • 不確実性の増加
  • 消費者の価値変化
  • 働き方改革

不確実性の増加

「不確実性の時代」と呼ばれる現代。一般社団法人日本能率協会の発表によると、日本企業が経営課題として最も多く挙げたのが「収益性向上」です。売上や利益の鈍化または停滞を懸念している企業がそれだけ多いということです。また「自社の主要事業の5年後について、見通しがつかない」と回答した企業が7割にも上りました。

不確実性の増加は2008年のリーマンショックがきっかけです。リーマンショック後に世界経済の停滞は長期に及び、「ニューノーマル」と呼ばれるようになりました。不景気がノーマル。この状態で、多くの日本企業が経営の不確実性に不安を持っています。

消費者の価値変化

2000年から現在までを比較すると、10年、ないし20年で消費者の価値観は大きく変化しまた多様化しています。またインターネットの普及も、消費者の価値観を変えました。インターネットとスマートフォンの普及により、消費者はいつでも即、必要な情報にアクセスできます。そのためブランドや広告で商品を選ぶのではなく、情報収集してより合理的に判断する消費者が増えました。そのため消費者の多種多様な価値観やニーズに応じた商品を提供する必要が企業にはあります

働き方改革

働き方改革は2018年に成立し、2019年から順次施行されました。それからというもの、長時間労働の是正や副業解禁などさまざまな変化が労働環境に起こりました。これらに対応し、企業は従業員や社会が求める適正な職場環境を構築しなければなりません。また先ほど紹介した日本能率協会の発表では、日本企業が3年後の課題として最も多く挙げたのが、「人材の強化」です。また「質的人材の不足」を挙げている企業は7割にも及びます。つまり企業は、質の高い人材の獲得競争をすることになります

経営課題を考える前提

経営課題となるアイデアを出す時には、先に次の点を頭に入れておく必要があります。企業が持つ経営資源は限られています。そのため経営課題に取り組む際には、課題を「選択」し「集中」的に取り組む必要があります。多くの企業は経営課題をひたすら全て並べて解決しようとします。改善の余地があるというだけで取り上げるならば、シェア拡大、製造コストの削減、間接部門の生産性向上、事業構造の再編、人事制度の刷新などいくらでも出てきます。それらを一気に解決し完璧な状態にすることなど、限られた経営資源が分散してしまい、非効率で非現実的です。経営課題に取り組むなら、経営資源を有効かつ集中的に投下し優先度の高い課題から確実に解決しましょう

企業が直面する経営上の10の問題一覧

企業が抱える代表的な経営課題は次のとおりです。

  • 人材確保
  • 人材育成
  • 生産性向上
  • 技術力・開発力強化
  • ブランド力の向上
  • 顧客満足度の向上
  • コスト改善
  • 営業力や販売力の強化
  • 物流の効率
  • 事業基盤の再編

人材確保

人材の確保は企業にとって最優先事項です。少子高齢化が止まらない日本で、働き手の確保は年々難しくなっています。人手不足解消のため、シニア世代、子育て世代の女性、外国人労働者の活用に取り組む企業が増えています。また新しい人材の確保が難しければ、残業、休日、その他の福利厚生など雇用環境を改善し離職率を下げることも必要です。

人材育成

有能な人を採用するだけでなく、社内で育成していくことも重要です。それができなければ、折角の人材を活かしきれず、従業員が「将来性」や「キャリアプラン」に失望すると、離職率が上がります。

  • 人材を育成するという企業風土がない
  • 明確な計画や目標が設定されていない
  • 研修を軽視しがち(「現場で学べ」「見て覚えろ」)
  • 人材育成の成果が評価されない

離職率の高い企業は概ねこのような状態にあると考えられ、人材育成の仕組み作りが急務です。

生産性向上

生産性は「生産性=アウトプット÷インプット」で求められますが、日本では効率化、合理化というインプットを少なくすることばかり強く推進されてきました。しかし、日本の労働生産性は、海外の先進国と比べて低いことをご存じでしょうか。日本企業にとって生産性の向上は非常に重大な経営課題です。社員のスキルアップ、業務改善、製造コスト削減、研究開発などさまざまな施策によりアウトプットを大きくし生産性を向上させる方法も考えられます。

技術力・開発力強化

技術力・開発力を強化し、競合と差を付けることは重要ですが、技術力や開発力の強化には人材と予算がかかります。またそれらは長期的な成果を期待し、辛抱強く育成しなければなりません。また、持続的に資源を投入し続けないと、研究開発を中断により技術の継承が途絶えてしまう危険性があります。

ブランド力強化

ブランド力とは、商品やサービスの名称やロゴが持つ対消費者価値のことです。使ったことのない商品でも、既知の有名なブランドであれば安心感や信頼感を消費者は持ちます。自社のブランド力を向上させれば、売り上げ増加や収益向上に繋がります。しかしブランド力の強化には技術力や開発力、ブランディング戦略など多面的長期的な積み重ねが必要です。

顧客満足度向上

顧客満足度を高めるためには、顧客の期待の実現を自社の「普通」にしなければなりません。また潜在的なニーズを調査し、経営企画に組み入れていく必要があります。

コスト改善

粗利は「売り上げ-原価」で求められるため、収益性向上のためには、売り上げをアップさせるか、コストを削減するしかありません。コストを改善するためにはまず、かかっているコストを可視化します。そして削減できる箇所を探します。

営業力や販売力の強化

営業拠点や販売力の強化は下記の3つの観点から行います。

  • 量的拡大:新規出店、販売エリアの拡大、営業増員
  • 質的向上:店舗や従業員あたりの売上高アップ
  • サポート体制:営業に専念できる環境つくり

物流効率化

物流倉庫における入出庫作業の効率化や配送の迅速化など、物流の効率化もコスト改善に繋がります。また最近のSCM(サプライチェーンマネジメント)手法では、商品開発から生産、プロモーション、物流、販売までを一連の工程と見なしてパフォーマンスを最適化します。

事業基盤の再編

グローバル競争が激しくなり、従来の事業基盤そのものが時代と合わなくなることも多いです。その場合、事業基盤を大幅に見直す必要があります。例えば2020年の三菱UFJリースと日立キャピタルの吸収合併の背景には、金融の枠を超えたサービス提供にニーズに応え相互補完を目指す目的がありました。

活用できるフレームワーク

経営課題に活用できるフレームワークは多岐にわたりますが、以下に一部の代表的なフレームワークを一覧にしました。これらのフレームワークは経営課題の分析や解決策の策定に役立つことがあります。

  1. SWOT分析(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)
  2. ポーターの競争戦略(Porter’s Generic Strategies)
  3. ビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas)
  4. PDCAサイクル(Plan, Do, Check, Act)
  5. バリューチェーン分析(Value Chain Analysis)
  6. マーケティングミックス(Marketing Mix)

SWOT分析

組織の内外の要素を分析し、強み・弱み・機会・脅威を明確化する分析ツール。戦略策定や意思決定に活用され、組織の戦略的な方向性を把握するために重要です。

ポーターの競争戦略


競争力を高めるための基本戦略を提案するフレームワーク。コストリーダーシップ、差別化、集中の3つの戦略を選択し、競争優位を獲得する手法です。

ビジネスモデルキャンバス


ビジネスモデルを視覚化するツールで、事業の要素を9つのブロックに分類して表現します。事業モデルの設計や変革に活用され、ビジネスの理解と改善に役立ちます。

PDCAサイクル

問題解決や業務改善のための反復的なプロセスを示す手法。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)の4つのステップを順次実施し、持続的な改善を図ります。

バリューチェーン分析

製品やサービスの付加価値を理解し、競争上の優位性を創出するための分析手法。供給者から顧客への価値創造プロセスを可視化し、業界内の位置づけを把握するのに役立ちます。

マーケティングミックス

製品・価格・販促・流通4つの要素から成るマーケティング戦略の構築手法。各要素を適切に調整し、顧客ニーズに応えるマーケティング活動を展開します。

日本企業の経営課題 

一般社団法人日本能率協会の調査によると、日本企業が自社の経営課題として捉えている問題が明らかになっています

現在直面している経営課題

900社を超える企業に、現在の経営課題を3つまで選んでもらったところ、「現在」における経営課題のトップ3は、このようになりました。

第1位「収益性向上」(43.4%)

第2位「人材の強化」(41.1%)

第3位「売り上げ・シェア拡大」(35.1%)

3年後の経営課題

第1位が「人材の強化」(41.7%)

第2位が「収益性向上」(29.0%)

第3位が「新製品・新サービス・新事業の開発」「売り上げ・シェア拡大」(ともに25.8%)

5年後の経営課題

第1位「事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築」(14.2%)

第2位「人材の強化」(10.7%)

第3位「売り上げ・シェア拡大」(10.2%)

分析にフレームワークを取り入れた経営課題の見つけ方

経営課題の見つけ方ですが、次の4つの可視化を行います。

  • 経営資金の可視化
  • 社員の成績の可視化
  • 組織状況の可視化
  • 業務フローの可視化

経営資金の可視化

資金繰りのどこに問題があるか、削減すべきコストはどれかを把握するためには、財務状況や金銭の流れを可視化する必要があります。現在だけでなく将来的な資金不足に対しても、予測と対策を立てることができます。帳簿では見えづらい現金の状況をチェックするには、「キャッシュフロー計算書」を作成するのが効果的です。

社員の成績の可視化

今や、「年功序列」ではなく、社員の成績や業績に応じた評価をする企業が増えています。
成績を可視化することは、パフォーマンスの高い社員の行動特性を抽出し、採用や育成に役立てることもできます。反対に、パフォーマンスの悪いチームや部署の分析は、労働環境や業務内容の問題の発見につながります。最も大切なことは、評価者の主観によって評価が曖昧になったり偏ったりしないよう、明確な評価指標を策定することです。

組織状況の可視化

組織状況とは組織内の人員配置や稼働状況のことです。人員の偏りや不足している能力を知るために必要です。規模が大きい企業や支店が多い企業は、組織図のアップデートが追いつかないことも多いです。現場の状況を知るには、課題やテーマを設定しアンケートを行います。アンケートは漠然としたものでなく、具体的である必要があります。

業務フローの可視化

業務フローの見直しは、属人化している作業を発見することができ、作業効率を高めることができます。業務の属人化は、業務量の偏りや特定社員の退職による支障など多数の問題をはらんでいます。洗い出した業務の流れは、マニュアル化します。

経営課題の解決法

見出した経営課題を解決するには、次の3つの作業を行います。

経営計画書の作成

経営計画書とは、会社の今後の進行方法、理想としている将来像を示す計画書です。内容は、ミッションや経営理念、経営方針といった大きな目標、そして中長期の経営目標や数値目標といった具体的な目標を記載します。

経営計画書を作成する意義

  1. 現実と理想を比較し、行動を修正できる
  2. 社員のモチベーションや定着率が向上する
  3. 企業イメージのアップにより、社外関係者からの信頼に繋がる

人事評価制度の見直し

優秀な人材の離職を防ぎ、目標達成に必要な技術や経験を持つ人材として育成したければ、適正な人事評価制度は必須です。評価指標に沿って判定することは勿論ですが、経営目標達成のため社員に何が求められているのか、どのような行動が求められているのかといった道のりを示すことが、人材の成長を促進します。

インフラリソースの見直し

コロナ禍によってリモートワークが急速に普及したため、通信回線などITインフラの改善を行う企業が増え、リソース配分を見直す必要があります。無駄を削減し重要な業務にかけるリソースを確保すれば、成長促進や労働環境改善が期待できます。

まとめ

経営課題を見つけて取り組むことは、変動の激しい現在の企業にとって必須です。とはいえ、経営課題の見つけ方や取り組み方がまったくわからないという経営者も少なくありません。この記事では経営課題に取り組む方のため、入門的な知識として、次の点について解説しました。

  • 経営課題が生まれる原因
  • 経営課題の事例
  • 最も多い経営課題、現在、3年後、5年後
  • 経営課題の見つけ方
  • 経営課題の解決法
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