日本を代表する企業のマネージャーたちが実践しているマネージメント手法がリーンマネジメントです。リーンマネジメントとは、一体どのようなマネジメントなのでしょうか。この記事では、スタートアップの起業家だけでなく、新規事業立ち上げのフレームワークとしてさまざまな企業で採用されているリーンマネジメントについて、主に以下の項目を解説します。
- リーンマネジメントの教科書
- リーンマネジメントの意味
- リーンマネジメントの手法
- リーンマネジメントの事例
リーンマネジメントの教科書とは
リーンマネジメントは現在注目を集めているマネジメント手法ですが、その背景には、ビジネスデザイナーとして活躍する細野真悟氏の存在があります。細野氏は2000年にリクルートに入社し、リクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。2013年にはリクルートエージェントにおいて事業モデル変革を行い、1年で100億の売上アップを実現しました。2017年からは音楽コラボアプリ「nana」を運営する、nana musicに最高執行責任者(COO)として転職し、月8000万円の赤字だった事業を2年半で黒字化します。現在は大企業とベンチャー企業の間でのレンタル移籍プラットフォームを提供する、ローンディールの最高戦略責任者(CSO)を務めながら、フリーのビジネスデザイナーとしても、複数のベンチャーの戦略顧問や、大企業の新規事業部門のメンタリングを行なっています。
細野氏の著書である、「https://amazon.co.jpリーンマネジメントの教科書-あなたのチームがスタートアップのように生まれ変わる-細野-真悟/dp/4296000659」は、著者が大企業のマネージャー向けに開いている、「リーン・マネジメント講座」を書籍化したもので、細野氏がその経験をもとに要約、体系化した、超実践的なセオリーとツールを紹介している、まさにリーンマネジメントの「虎の巻」とも言える本です。
リーンの意味、本質、アジャイルとの違い
リーンという言葉の意味
リーンマネジメントの「リーン」は、英語の「lean」からきていますが、これは下記のような意味を持つ言葉です。
- 体が締まった
- 贅肉や脂肪が取れて痩せた
- 無駄がない状態
これを企業経営に置き換えると、「プロジェクトの進行に必要なものだけを残した無駄のない状態」を指します。
リーンマネジメントの本質
リーンマネジメントの本質は、次の3つの考え方に要約されます。
- 市場、顧客視点での価値の提供
- 組織内での価値を生まない無駄の排除
- 商品、サービスの継続的な改善
つまり、商品やサービスの開発にあたり、徹底したプロセス管理で無駄を省き、最小限の経営資源で最大限の顧客価値を提供するためのマネジメント手法がリーンマネジメントだといえます。リーンマネジメントの本質は、「市場および顧客の開発」であると言われ、顧客視点での経営の最適化と言い換えることができます。
リーンとアジャイルの違い
リーン開発とアジャイル開発との違いについても述べておきましょう。リーン開発とは、上記のように、商品やサービスを完成させる過程において無駄な要素を省き、最小限の経営資源で最大限の顧客価値を生み出すためのマネジメント手法です。また、一度無駄を省けばいいというものではなく、時代や状況の変化に常に対応し、市場投入後の事業ピポッドを通し市場や顧客のニーズに合わせて軌道修正することによって、「市場や顧客の開発」をめざします。
一方、アジャイル開発は、小さなサイクルでの検証と改善を繰り返すことによって、より良い商品やサービスを開発するためのマネジメント手法です。細部にわたって開発や設計を繰り返すことによって、「より優れた商品やサービスの開発」をめざします。
混同しやすいですが
- 市場や顧客を開発し満足度を高めるリーン開発
- 検証と改善を繰り返しより良い商品、サービスを開発するアジャイル開発
という点に明確な違いがあります。
リーンマネジメントの基本 5S
5Sの「整理・整頓・清掃・清潔・躾」は、効率的な職場環境と生産性の向上に貢献する重要な手法です。ここでは、各要素の具体的な内容と実践方法について解説します。5Sの実践は組織全体での取り組みが重要であり、職場環境の品質向上と共に従業員の満足度も向上させる効果が期待できます。まずはこれらの環境を整えていきましょう。
整理
整理は、効率的な業務遂行やスムーズな作業環境の実現に欠かせない要素です。不要な物の除去や必要な物の整理整頓を行うことで、作業効率が向上し、ミスやロスの発生を減らすことができます。整理のポイントは、定期的な物品の見直しや仕組みの整備、効果的な収納方法の確立です。無駄な時間やストレスを削減するために、整理の意識を持ち、常に整頓された作業環境を維持することが重要です。
整頓
整頓は、整理した物品や道具を適切な場所に配置することです。整頓された作業環境は、作業効率の向上やストレスの軽減につながります。物品の配置は、頻繁に使用するものや関連するものを手の届く場所に配置し、必要な時にすぐに取り出せるようにします。また、整頓の基準やルールを定めて、全員が同じ基準で整頓を行うことが重要です。整頓された環境は生産性を高め、作業の効率化につながるため、日常的に整頓を心掛けましょう。
清掃
清掃は、作業場やオフィスの清潔さを保つための活動です。定期的な清掃は環境を快適に保ち、健康や安全面にも影響します。清掃活動には、ゴミの収集・処理、床や机の拭き掃除、排水口やトイレの清掃などが含まれます。清掃の目的は、埃や汚れの除去、衛生環境の維持、作業効率の向上です。定期的な清掃スケジュールを設定し、全員が責任を持って清掃活動に参加することが重要です。清潔な環境は作業者のモチベーションや生産性を高めるため、日常的な清掃を実践しましょう。
清潔
清潔は衛生的な状態を保つことを指し、作業場やオフィスにおいては清潔な環境が重要です。清潔さは従業員の健康と快適さに影響し、生産性向上にもつながります。清潔な状態を維持するためには、定期的な手洗いや消毒、清潔な作業道具や器具の使用、清潔な作業環境の整備が必要です。また、清潔を意識した行動やマナーも重要です。清潔な環境を作り出すためには、清潔を習慣化し、従業員全員が清潔意識を持ち、実践することが大切です。
躾
躾は、適切な行動様式やマナーを身につけることを指します。職場やチームでの躾の実践は、円滑なコミュニケーションや効率的な業務遂行に寄与します。躾の一例としては、時間厳守や約束の守り、他者への敬意や協力、コミュニケーションの明瞭さなどがあります。躾は個人の品格や組織文化を形成する重要な要素であり、互いに尊重し、円滑な協働を実現するために欠かせません。
リーンプロジェクトの実践
市場と顧客の開発。この実現を目指し、そのプロセスを管理するリーンプロジェクトを実践するにあたって、常に次の5つのプロセスを継続する必要があります。
- 商品、サービス価値の特定
- 価値を生まない無駄の排除
- 価値製造過程を創造する
- 個々のプロセスにおける価値の抽出
- 改善
上記5つのプロセスをまとめ、一つのサイクルとして回し続けることが、無駄を排除しながら最大の価値を生み出すことにつながります。
リーン生産方式
上記のようなリーンプロセスを実践していく上で、基本的な考え方と言えるのがリーン生産方式です。これはトヨタ自動車が生産現場で採用していた、「トヨタ生産方式(TPS)」に由来しています。生産方式と名がついていますが、製造業のみならず、さまざまな分野でマネジメントに活用できるシステムであることから、業態を問わず、広く活用されているリーンマネジメント手法です。リーン生産方式では、効率化のためにプロセス管理を徹底することにより、従来からある大量生産方式と同等、またはそれ以上の品質を担保しながら、作業時間やコストを大幅に削減することができます。
リーンプロジェクト管理5つの原則
市場や顧客の満足度を最大化させるための次の5つのステップを、リーンプロジェクト管理の5つの原則といいます。
- 価値の特定
第1の原則は、製品の価値の特定です。プロジェクト内外の関係者を正しく把握し、誰に対してどういった価値を生み出すべきか、その方法を正しく判断しなければなりません。 - バリューストリームのマッピング
第2の原則は、バリューストリームマッピング(VSM)です。これは、プロジェクトがスタートしてから終了するまでのワークフローを、理想と現実に分けて視覚的に示したものです。2つのワークフローを比較し、プロジェクト内に点在する問題点を突き止め、効率を最大化します。 - フローの作成
第3の原則は、フローの作成です。第2のステップで突き止めた問題点を改善することにより、より効率化できるようにプロジェクトの管理を見直します。 - プルシステムの確立
第4の原則は、プルシステムの確立です。プルシステムとは、自工程の完了後、次に取り組む作業を前工程から引っ張ってくる手法です。必要なモノを必要なだけ、という「ジャストインタイム」システムをさらに発展させたもので、ワークフローを効率的に稼働させることができます。 - 継続的な改善
第5の原則は、継続的な改善です。リーンプロジェクトの管理は、一度やったら終わりというものではありません。関係者のニーズの変化に対応し、ワークフローを継続的に改善し続けることが求められます。
リーン手法の実践事例3選と成功を導く3要素
リーンマネジメントは製造業にとどまらず、さまざまな業態に有効なマネジメント手法です。では実際に、どういった企業で活用されてきたのか、実践事例をいくつか紹介します。
リーン手法の成功事例3選
Instagram(インスタグラム)
Instagramはユーザー数10億人を超えると言われる、世界的に有名な動画・画像共有アプリです。もともとはBurbnという名称で位置共有アプリとしてのスタートでしたが、あまり人気が出ませんでした。しかしリーン手法を活用し、検証と改善を繰り返すことによって、写真の共有機能が最も人気があることを発見しました。そこで写真投稿をメインとしたSNSとして方向転換したことで、一気に人気が上昇しました。
Dropbox(ドロップボックス)
オンラインストレージサービスであるDropbpxは、リーンスタートアップにおいて用いられるMVP(Minimum Viable Product)という手法を用いて開発されました。初めから完璧な製品を目指すのではなく、必要最小限の機能を持ったシンプルな製品をローンチすることで、顧客のニーズを正しく把握し製品開発に取り組んだ成功例です。
食べログ
日本におけるリーンスタートアップの代表的な事例として知られるのが、グルメサイトの食べログです。食べログは当初ユーザー数が数百人程度、手入力のグルメデータベースとしてスタートしました。しかし、ユーザーからの改善要望のフィードバックに対して可能な限り対応することで、サイトをアップデートし続け、月間の利用者数が1億人を超える巨大グルメサイトに成長しました。
結果を最短で生み出す3つの要素
リーンプロジェクトにおいて、最短で結果を生み出すためには、次の3つの要素が重要であると言われています。
アウトプットから逆算すること
プロジェクトの工程においては、顧客のニーズを満たすためのアウトプットから逆算して検討していくことが最も重要となります。ただしここでいうアウトプットとは、現時点での「仮説」でしかありません。しかし、その時点で集められる情報や材料を精査ししっかりと仮説を立てることで、将来的にアウトプットが予想とずれてしまった場合にも、「仮説」を迅速に立て直すことが可能になります
メンバーやリソースを厳選すること
リーンプロジェクト においては、「リーン」の言葉通り無駄のないメンバーとリソースを構築する必要があります。先に説明した、「プロジェクトの進行に必要なものだけを残した無駄のない状態」を心がけ、最小人数のメンバーでの能力の最大化、最小限のリソースの投資での効果の最大化を目指します。ただし、無駄のない状態を追求するあまり、人員やリソースが不足してしまっては本末転倒です。費用対効果を考えバランスのとれたリソース投下を行はなければなりません。
全てのメンバーに経営力を求めること
リーンマネジメントでは、経営層だけでなく、現場のメンバーに至るまで、全てのメンバーに経営力が求められることが大きな特徴の一つです。最短で結果を生み出すためには、現場であっても、経営層のような多角的な視点を持って業務にあたることが大切です。それによって組織内での方向性のブレを防ぎ、スピード感のあるプロジェクトの進行が可能になります。
まとめ
リーンスタートアップという言葉に代表されるように、リーン手法はスタートアップ企業において主に有効とされるイメージが持たれがちです。しかし、リーンマネジメントを正しく理解し、うまく組織にフィットさせることができれば、さまざまな業種で組織運営における無駄を減らし、新たな事業や変革の機会を創り出す可能性が生まれるのではないでしょうか。この記事では、次の点について解説しました。
- リーンマネジメントの教科書
- リーンマネジメントの意味
- リーンマネジメントの手法
- リーンマネジメントの事例
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