突然ですが、管理職に求められている責務は次のどちらだと思いますか。
- マネジメント
- 管理
もう少し分かりやすく言い換えましょう。
- 組織(部署)マネジメント
- 部下の管理
「率直に言って、何がどう違うのかわからない。」「管理職というからには、部下の管理が仕事だと思う。」と答える人は少なくないでしょう。しかしながら今、そしてこれからの時代に、企業で求められるのは、従来型の管理ではなく西洋型(欧米型)のマネジメントなのです。この記事では次の点について解説します。
- 管理とマネジメントの違い
- 管理でなくマネジメントが求められる理由
- マネジメントに求められる役割や能力
- マネジメントを成功させるのに大切なこと
管理とマネジメントの違い
最初に、管理とマネジメントがそれぞれ何を指すか、正確に把握しておきましょう。
管理とは
管理という言葉は本来、「そのものが十分に機能できるよう、配慮し取り仕切るること」と定義されています。日本の多くの企業や官公庁が長い間行っていた「管理」は、次のようなものでした。トップの代表者である社長などから始まり底辺で企業を支えるヒラ社員やパートタイマーまで、縦につながったピラミッド構造の中で、部長や課長などの中間管理職が、経営陣の意向を現場に伝え、業務管理を通し部下の行動を統制する。つまりトップダウン方式でした。統制するというのは、基準やルールの枠から外れないよう、行動を制限することを意味します。しかしながら、この縦型トップダウン方式のやり方では、グローバル化をはじめとした社会の変化に十分に応じることができなくなってきています。そこで近年、関心を集めているのが海外、特に欧米で適用されている「マネジメント」という経営手法です。次に、マネジメントの定義を確認しましょう。
マネジメントとは
「マネジメントとマネージャー」を定義した「マネジメント」の著者ピーター・ドラッカーは、次のように述べています。
- マネジメントとは組織に成果を上げさせるための道具・機能・機関である
- マネージャーとは組織の成果に責任を持つ者である
よりわかりやすく言うと、マネジメントとは、組織が成果を上げて目標を達成できるよう、ヒト・モノ・カネ・情報、この4つの経営資源を最大限にうまく使うことを指します。「組織のやりくり」と言われることもあります。当然ですが、その過程で発生する問題の解決も、マネジメントに含まれます。この経営資源のやりくりを企業の現場に当てはめて考えると、マネジメントとは上司が部下の行動を制限することではなく、目的達成のために、個々の能力を最大限に活用しながら成果を上げることであり、その計画遂行であると言えます。行動制限である管理と成果を目的としたマネジメント、この二つには、決定的な違いがあります。
様々な視点から見るマネジメントと管理の違い
組織の成功には、マネジメントと管理の適切なバランスが不可欠です。しかし、これらの用語はしばしば混同されることがあります。役割とスキル、人とシステム、ビジョンと業務、革新と維持、リーダーシップとオペレーションなどの観点から、両者の異なる側面を明確にします。組織の成果を最大化するためには、マネジメントと管理の役割と関係性を理解することが重要です。
役割とスキルの視点
マネジメントと管理は組織内で異なる役割とスキルを要求します。マネジメントはビジョンや戦略の策定、目標の設定、リーダーシップの発揮など、組織全体の方向性を定める役割です。一方、管理は日常業務の計画や実行、効率性や品質の管理など、具体的な業務の遂行に焦点を当てます。マネジメントには戦略的思考やビジョンの共有能力が求められ、リーダーシップスキルが重要です。一方、管理には計画や組織力、効率的なタスク管理などのスキルが必要です。両者のバランスを取りながら、組織の成果を最大化するためには、役割とスキルの適切な配分が重要です。
人とシステムの視点
マネジメントと管理の違いは、人とシステムの視点にも現れます。マネジメントは人間の行動や能力を最大限に活かし、チームの協力や成長を促進する役割を果たします。リーダーシップやコミュニケーションスキルが求められます。一方、管理は効率的なシステムやプロセスの構築と運営を重視します。組織の規則や手順の整備、品質管理などがその一環です。人とシステムのバランスを取りながら、組織の円滑な運営と成果の向上を図ることが重要です。組織の成功には、人とシステムの両面の視点を統合的に考えることが欠かせません。
長期的なビジョンと日常業務の視点
マネジメントと管理の違いは、長期的なビジョンと日常業務の視点にも関係しています。マネジメントは組織の長期的な目標やビジョンを明確にし、それに向かって方向性を示し、チームを導く役割を果たします。戦略立案や目標設定、リソースの配分などが重要です。一方、管理は日常業務の遂行やタスクの管理に焦点を当てます。効率的なスケジュール管理や課題解決、適切なリソースの配置などが求められます。ビジョンと日常業務の視点をバランスよく取りながら、組織の長期的な成果と日々の業務の実行を両立させることが重要です。
革新と維持の視点
マネジメントは組織の革新と成長を促進する役割を果たします。新たなアイデアや戦略の導入、イノベーションの推進などが重要です。一方、管理は組織の維持と安定性を確保するための役割を担います。効率的なプロセスやルールの運用、品質管理などが求められます。革新と維持の視点をバランスよく取りながら、組織の成長と安定性を両立させることが重要です。適切な革新を促進しながら、組織の基盤をしっかりと維持することで、持続的な成功を実現できます。
リーダーシップとオペレーションの視点
マネジメントと管理の違いは、リーダーシップとオペレーションの視点にも関係しています。リーダーシップはビジョンの設定や方向性の提供、チームの指導とサポートを通じて人々を鼓舞し、組織の成果を引き出す役割です。一方、オペレーションは具体的な業務の実行と管理に重点を置きます。プロセスの最適化、タスクの割り当てと追跡、効果的なリソースの活用などが求められます。リーダーシップは組織の方向性を示し、メンバーを鼓舞して目標達成に導きます。一方、オペレーションは実際の業務の遂行を通じて組織の効率性と成果を最大化します。リーダーシップとオペレーションのバランスを取りながら、組織を効果的に運営することが重要です。
管理でなくマネジメントが求められる理由
旧態の縦型管理体制から欧米型マネジメントにシフトが進んでいる理由の代表として、IT化が挙げられます。ITの進化によって、企業環境は大幅に変化し、容赦ないと言っていいほどの勢いで経営革新、つまりビジネスの変化が進んでいます。ただしIT業界に限らずマネジメントは広く実践されています。例えば先に挙げたグローバル化や非正規雇用の増加なども、旧型の「管理」では対応しきれなくなった原因として挙げられるでしょう。大量生産、ルーティンワークが産業の主体で、同じことを基準から外れずできるだけ正確にたくさんこなせば成果が出た時代には、管理が有効でした。上からの命令を待って従う縦型管理が、効率が良かったのです。しかし、今後は、個々の従業員が自発的な改善型業務遂行を行い、共通のゴールが目指せる組織を構築しなければ、企業の業績の成長は望めません。
マネジメントによる業務管理
マネジメントの手法を取り入れる時には、マネージャーという役割の管理職を配置することが一般的です。既存の管理システムからマネジメント管理に移行するには、管理職の名称変更以外にも様々な社内改革が必要になるでしょう。マネージャーは、従来の管理職同様に上層の経営陣とと現場で働く社員とをつなぐ役割の他に、次の章で述べるような業務を行います。
マネジメントに求められる役割や能力
管理とマネジメントの違いが明確になったところで、今度はマネジメント職であるマネージャーは具体的にどのような仕事をするのか、そしてどのような能力が求められるのかについて解説します。
マネジメントの仕事内容
チーム全体を経営の視点に立って俯瞰的に観察し、メンバーとしっかりとしたコミュニケーションを取りながらチームの動きを調整して、目標を達成する。これがマネジメントに求められる役割です。コミュニケーションしながらまとめあげ、ゴールに導くチームワーク重視の手法であるいう点が旧態的な管理職とは異なります。そのためリーダーシップに加え、業務管理能力、人材育成能力、コミュニケーション能力といった広範な能力も必要です。マネジメントの代表的な仕事は、以下のとおりです。
- プロジェクトと業務の管理
- 現場での意思決定
- 部下の指導と育成
- 部下の労務管理
しかしながら、後ほど詳しく説明しますが、企業の規模や業務内容によりマネジメントの具体的な手法や内容は変わります。
マネジメントに必要なスキル
次の6つの要素を組み合わせてマネジメントに当たることが一般的です。
- 目標設定スキル
- 管理スキル
- 問題解決・分析スキル
- 意思決定スキル
- コーチング・コミュニケーションスキル
- ファシリテーションスキル
高いマネジメント能力とは
絶えず分析、洞察、意思決定、そしてコミュニケーションを行いながら、目標設定、調整、管理しゴールを目指すマネジメントを上手くこなす人には、次のような特性があります。
- 分析力や洞察力に優れている
- コミュニケーション力が高い
- 人望がある
- 責任感が強い
マネジメントを成功させるには
マネジメントが上手くいかない場合、管理職やマネージャーなどマネジメント担当者のマネジメントへの理解不足が原因かもしれません。部下の労務管理を行うに際し、次のような視点で「管理」しようとしていないでしょうか。
- 進捗が遅れると、上司やクライアントに怒られる。
- 〇日までに経営陣に進捗報告をしなければいけない。
- 部下をしっかり働かせたい。
- 自分のやり方やルールを部下に学ばせ、従わせたい。
どれもありがちな思考、発言で、「何が悪いのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかしながら、これだけの意識では、マネジメントを行うマネージャーとしては不足です。何故なら、そこには「目的」意識が抜け落ちているからです。マネジメント、そして企業活動の全ての目的は、「成果を出すこと」のはずです。ドラッカーの定義するマネージャーの役割を、もう一度思い出してみましょう。は「組織の成果に責任を持つ」事です。「管理」は「マネジメント」を遂行するための手段の一つでしかありません。管理がいけないのではなく、管理だけでは足りないということです。
「上司がそう言っているから」「そういう決まりだから」「自分もそうやってきたから」ルールからはみ出さず、全く同じようにしろという指導では、部下やメンバーからの納得や信頼は得られず、自発的なモチベーションと成果は望めません。一方で、全てを個人任せにしてしまっては、正しい方向性でのチームの成長は困難です。大切なのは、次の2点です。
- 自社や自組織の規模、業種、事業のフェーズ、状態、メンバーの特性、自分自身の特性に合わせて、最適なマネジメントスタイルは変わることを理解する。(オーダーメイドのマネジメントスタイル)
- オーダーメイドのマネジメントスタイルが偏り過ぎないよう、マネジメントに必要な複数の要素をバランスよく取り入れる。
これが、昨日までの成功体験を今日も繰り返し、明日もやる。これで右肩上がりに成長できた高度経済成長期の管理スタイルが管理職に好まれがちな理由と、IT化やグローバル化に対応しきれない理由です。自分の過去の成功体験がどれほど優れていても、加速する社会や業界の流れによって適切なマネジメントは絶えず変化するので、新しいやり方を取り入れ臨機応変に使い分け続けなければなりません。
マネジメントと管理、親密さ(「アットホームな職場です」という求人文句に見覚えがある方は多いでしょう)と業務連携の円滑さ、職場の雰囲気と成果、熱意や努力と成果…そういった混同してしまいがちな要素をしっかりと分けて理解した上で、必要なスキルを向上させていくことがマネジメントを成功させるコツです。
まとめ
現状、多くの経営者や人事担当者までもが、マネジメントと管理、あるいはリーダーシップなどを正確に理解しているとは言えません。まして現場の管理職であれば、そこまで意識できていない場合が多いでしょう。管理は、組織の統制やメンバーの行動制限を指し、トップダウン体制にマッチする手法です。マネジメントは、目的に向かって組織全体を導き成果を出すことです。今後、日本を取り巻くビジネス環境が「古き良き時代」に戻ることは、まず考えられません。むしろ、より大きく変化していくことが見込まれています。生き残るために、社会の変化に合わせ柔軟にマネジメントしていく必要があります。
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