人材育成方針とは何か その重要性、目的、策定方法、注意点を解説

管理職の役割は部下の育成です。部下が上から指示された業務を受動的に行うだけの状態から、自発的に仕事に取り組むように成長を後押しします。ですが、人材育成は簡単ではありません。人材育成で重要なのが人材育成方針の設定です。人材育成によって企業が成長するために不可欠な人材育成方針は、企業全体で共有されるべきです。人材育成方針を策定するにあたり、何が重要なのか、どのように決めればよいのかわからないという管理職や人事担当者は少なからず存在します。この記事では、人材育成方針について次の項目を解説します。

  • 人材育成方針とは
             
  • 人材育成方針の重要性と目的
             
  • 人材育成方針策定時に注意するべきこと
             
  • 人材育成方針策定の手順
目次

人材育成方針とは

「人材育成方針」とは、その組織が目指すべき社員像「社員をどのような人材に育てるのか?」と、そのための取り組み「どのような取り組みをするのか」をセットにして、企業としての具体的な方向性を示したものです。「社会やニーズの変化が激しく厳しい経営環境の中で、柔軟性を持ってメンバーを牽引できるリーダーを輩出したい!」「高い専門性や知識を追求し、それを武器に活躍できる人材を育てたい!」など、自社が望む社員像を明確にし、それに近い人材を育成するため、具体的な取り組みを策定します。人材育成方針が定められていない企業は、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると約3割もありますし、方針があっても内容は各社様々です。

人材育成方針の重要性

しかし、人材育成方針、特に「どのような人材を育てるのか」を最初に明確にすることは非常に重要です。人材育成担当者から「どのような研修をするのか?」「どの階層から育成するか?」など具体的な育成方法に関する悩みがあげられることがよくありますが、本当に重要なのはこの「どのような人材を育てるのか」という目的です。求める人物像こそが、人事配置、人事評価制度、研修など企業の人材育成に関する取り組みの根幹です。そこが不明確であれば、どのような人事評価制度が自社に合っているか、どのような研修を実施すべきかなどもはっきりしません。社員側も「会社で決められている研修だから、本来の業務で忙しいのに、従わなければいけない。」「会社は、役に立ちそうだから受けるようにと指示するが、これは自分には関係ない。」という程度の意識しか持てません。

一方で、方針が明確に定まっていれば、方針に沿った人事評価制度を導入し、効果的な研修を実施することができます。人材育成に関する取り組みに矛盾やムダがなければ、社員も取り組む必要性と意義を理解できます。人材育成方針が明確に定まっていれば、研修などについても「当社ではこのような人材を求めているから、このスキルをアップする必要がある。」と理由や目的を説明することができます。

ではそもそも、なぜそんなに人材育成が重要なのかという話になりますが、これは世界のIT化やグローバル化に加え、我が国の少子高齢化問題が深く関係しています。国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(平成29年推計)』によると、2053年には日本の総人口は1億人を割り、15歳から64歳の生産年齢人口は2056年に5,000万人を割ることが既に予測されており、労働人材の確保と生産性の向上が急務となっています。しかしながら、海外や大企業を相手に、多くの企業では労働人材の獲得競争に競り負ける可能性もあります。そのような状況で企業の将来性を考えるならば、人材育成方針に沿った取り組みによって社内人材を育成し、生産性の向上を図る必要があるのです。

人材育成方針の目的

人材育成方針を設定する目的は、以下の3つに集約されます。

  • 明確な評価制度
             
  • 企業の成長促進
             
  • 多様性

それぞれについて解説します。

明確な評価制度

人材育成方針の設定は明確な評価制度につながります。「求める人材」と「そのための取り組み」が明確ならば、それを基に評価基準を決めることが可能だからです。これは「企業が求める人材になれば評価が上がる」ということですから、社員の評価制度への理解とモチベーションを向上させます。

企業の成長促進

企業が成長するには、自社が求める理想の人材像に合うように、人材育成に力を入れ、社員のスキルを向上させなくてはなりません。人材育成方針を策定することで、その「理想の人材」を育てるには何をしたら良いかという必要項目や段取りが見えてきます。自社にどんな人材が必要か、不足しているかは、企業や業界によって大きく異なりますからしっかりと確認をし、的確な育成をする必要があります。

多様性

経済産業省は、我が国の中小企業や中堅企業の発展には、「ダイバーシティ経営」が必要だと発表しています。ダイバーシティ経営とは、経営環境の変化に対応するために多様な人材の活躍を推進する経営のことです。しかし、ここで誤解してはならないのは、ダイバーシティ経営の成功は、闇雲に多様な人材を採用することでは実現できないということです。現場で活躍するには、採用後の人材の育成が必須です。またダイバーシティ経営による成長を実現するには、人材育成方針が柔軟に変更、適用されることも必要ですので、トップダウン式の育成が硬直化することのないよう注意しましょう。

人材育成方針策定時の注意点

人材育成方針の基本がわかったところで、次に、策定時の注意点について解説します。

人材育成方針を定めるときに注意するべきポイントは次の3つです。

  • 現実的な方針を設定する
             
  • 社員に徹底周知する
     
  • 定期的に見直す

現実的な方針の策定

人材育成方針は実現可能な内容でなければ、効果がありません。実現可能性のない方針の策定は、部下に対し一方的な根性論や精神論で責めるブラック企業体質、または部下の上司や会社に対する不信感のいずれか、または両方を育てるだけです。そのため、人材育成方針を設定するときは現場のメンバーの声を聞くなど現状を正しく把握し、達成可能な方針を立てることが大切です。

社員への周知を徹底する

人材育成方針を決定したら、次は社員へ周知します。ただ伝えるだけでなく、本当に社員が理解、納得したかどうかを気にかけましょう。時間と労力をかけ素晴らしい方針を策定しても、社員が理解していないと人材育成の意味がありません。

定期的な見直し

人材育成方針は一度定めたらそれで完成、終了ではありません。定期的な見直しが必要です。また業界や事業、職種によっては、事業環境の変化が激しく、絶えず見直しとアップデートが必要になることもあります。例えばエンジニアのような職業は、持っている技術や知識が短期間で古くなってしまいます。社員の持っている知識が古く顧客から見て価値が低いと、新規顧客獲得どころか既存顧客まで離れていってしまい、非常に危険です。他業種、多職種であっても、自社の人材育成方針や求める人物像などが時代に乗り遅れていないか、定期的にチェックする姿勢が大切です。

人材育成方針を立てる具体的な手順

ここでは、実際に人材育成方針を策定するための方法を4段階に分けて説明します。

目指す人材像を明確にする

まず自社の目標を明確にします。企業理念、ミッション、ビジョン、経営戦略と呼ばれる部分ですが、これを達成することが今の人材レベルでできないのであれば、育てるべき人材像を定めます。ここで大切なことは次の2点です。

  • 実現可能な目標を立てる:現実味がなければ、社員のモチベーションにとっても会社にとってもマイナスでしかありません。
             
  • 短中長期それぞれのスパンで目標を設定する:あまりに遠い目標では中だるみし、成果が出にくくなります。

現状の把握

現状の組織体制や人材構成について、水準、強み・弱みなどを把握します。部署ごと、階層ごとに細かく確認することが大切です。現状の正確な把握は、人材育成方針や計画の策定をスムーズに効果的なものにします。当事者意識を醸成させるためには、各部署、少なくとも各部署の管理職と問題がある部分の当事者からヒアリングすることが効果的です。「長所・強み」があまり出てこずに「弱み・課題」が多く出てくることもありますが、これはマイナスに捉えたり叱責の種にするのではなく、これらの弱みや課題を改善すれば会社が大きく成長できるチャンスと考えましょう。自社の社員のスキル、成長意欲などもリサーチします。

現状とのギャップを整理する

次に、目指す人材像と現状を対比しながら、そのギャップを抽出し整理します。この作業には「スキルマップ」の活用が効果的です。スキルマップとは「社員ごとまたはグループや部門単位で、業務遂行に必要なスキルを備えているかどうかを一覧にした表」のことで、今回のように人材育成方針を考えるならば、部門、職種、階層単位でのスキルマップ作成が妥当です。これによって、足りていないスキル、重点的に取り組むべき課題、求められるスキル・能力と現状のギャップなどが可視化されます。

目指す人材育成像と現状のギャップをもとに、具体的な人材育成計画を立てる

最後に具体的な人材育成の計画を立てます。ステップ1~3を通じて明確になった「組織が目指す人材像」と「現状のギャップ」を基に人材育成計画を立案します。

パフォーマンス評価とフィードバック

組織の成長と成功には、効果的な人材育成方針とパフォーマンス評価が不可欠です。パフォーマンス評価の重要性とフィードバックの役割に焦点を当て、組織が優れたパフォーマンスを引き出すための方法を探ります。パフォーマンス評価の目的や基準の設定、適切なフィードバックの提供方法、そしてフィードバックを活かした成長と改善の手法について解説します。組織の人材育成方針を具体的なアクションに結び付け、パフォーマンス評価とフィードバックを有効に活用することで、組織全体の成果を最大化しましょう。

パフォーマンス評価の目的と重要性

パフォーマンス評価は組織において重要な役割を果たしています。その目的は、従業員の仕事の成果や行動を評価し、個人のパフォーマンスを把握することです。パフォーマンス評価は以下の点で重要です。まず、従業員の成果を明確に評価することで、優れたパフォーマンスを認識し報酬や昇進の機会を提供できます。また、パフォーマンス評価はフィードバックの機会でもあり、従業員の成長と能力開発を促進します。さらに、組織の目標と個人の目標を結びつけ、全体のパフォーマンス向上に寄与します。定期的なパフォーマンス評価はコミュニケーションと透明性を促進し、組織の効率性とモチベーションを高めます。組織にとってパフォーマンス評価は不可欠なツールであり、戦略的な人材管理に欠かせません。

効果的な評価基準の設定

効果的な評価基準の設定は重要です。まず、評価基準は明確で具体的な目標や期待に基づいている必要があります。それに加えて、適切な基準を選択し、従業員の仕事に適用することが重要です。評価基準は定量的な結果だけでなく、質的な要素や行動も考慮するべきです。また、フェアな評価を保証するために、複数の視点やデータを組み合わせることも重要です。さらに、評価基準の明確なコミュニケーションと従業員の参加も効果的な評価を実現するために不可欠です。効果的な評価基準の設定により、公平な評価が行われ、従業員の成果や成長を適切に評価することができます。

フィードバックの重要性と効果的な提供方法

フィードバックは従業員の成長やパフォーマンス向上において重要な役割を果たします。効果的なフィードバックは具体的で具体的な情報を提供し、建設的なアドバイスや改善の機会を提供します。フィードバックは定期的かつ適時に行うことが重要であり、行動や成果に関連する具体的な事例を挙げることで信頼性を高めることができます。また、フィードバックは双方向のコミュニケーションを促進し、従業員の意見や視点を尊重することも重要です。適切なフィードバックの提供は従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、成果の向上や組織全体の成長につながります。

パフォーマンス改善のためのアクションプラン

パフォーマンス改善のためのアクションプランは以下の要素を含みます。まず、目標の明確化と具体化を行い、従業員が理解しやすい目標を設定します。次に、必要なスキルや知識の獲得のためのトレーニングや教育プログラムを提供します。また、フィードバックやコーチングを通じて従業員の成長を支援し、個別のニーズや課題に合わせたサポートを提供します。さらに、パフォーマンスのモニタリングと評価を定期的に行い、進捗状況を把握します。必要に応じて調整や改善策を導入し、継続的な改善を図ります。最後に、従業員とのコミュニケーションを大切にし、共同の目標に向けて協力して取り組む環境を整えます。

まとめ

企業が掲げる長期的な目標を達成するには、必要な人材の確保や育成が欠かせません。人材育成の基礎となる人材育成方針は、企業の成長に欠かせない要素のひとつだと言えます。この人材育成方針に従い、人材を確保するための制度や仕組み作りを行っていくので、人材育成方針を定める時には、その目的、効果、注意点などに留意する必要があります。また自社にどのような方針が必要であるかを正確に分析し、実現可能な範囲で目標を設定し、社内に徹底的に浸透させることが肝心です。人材育成や人材育成方針の策定に関心があるならば、今回の記事を参考に、自社にどのような人材育成方針が必要か改めて検討してみることをおすすめします。

この記事でわかることは次のとおりです。

  • 人材育成方針とは
             
  • 人材育成方針の重要性と目的
             
  • 人材育成方針策定時に注意するべきこと
             
  • 人材育成方針策定の手順
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