失敗から学ぶために〜新規事業の撤退基準と条件の定め方〜

新規事業の立ち上げを行う際には、ほとんどの場合に事前に入念なリサーチとマーケティングを行い、成功する見込みがあった上で実際に立ち上げに踏み切ることかと思います。しかし、「新規事業はなかなか成功しない」と語られることが多いのも事実です。こうしたことから、新規事業の立ち上げに不安も抱えている方も多いのではないでしょうか。

実際、中央企業庁が公開している『新事業展開の促進』によると、新規事業の展開を行った企業のうち「成功している」と答えた企業は全体の29%で、さらに、その中でも経営利益率が上がっていると答えたのは50%とのことです。つまり、実際に「成功している」と考えられる企業は全体の1〜2割程度ということになります。

単純にこの結果だけを見ると、新規事業の立ち上げを成功させるということは決して容易ではないということがわかります。つまり、そこには必ず「失敗する」リスクが存在するのです。

「新規事業というのはスタートさせることよりもストップさせる方が難しい」という言われ方もする中で、どこを基準に「まだやれる」なのか「もうやめる」なのかのボーダーラインを定めれば良いのでしょうか。傷を最小限に抑えるためにも、事前に引き際についてもしっかりと考えておくことは非常に重要なことなのです。

本記事では、新規事業の撤退基準と条件を主なトピックとして解説していきます。新規事業の立ち上げを目指している人、今まさに新規事業で悩んでいる方の参考に少しでもなればと思っています。

■「新規事業撤退」の意味とは?

—そもそも「事業撤退」とはどのような事業を意味するのでしょうか。まずは新規事業における事業撤退の意味について考えます。

■新規事業を撤退する5つの主な理由

—なぜせっかくの新規事業を撤退することになってしまうのでしょうか。その理由として挙げられる主な5つの理由をご紹介します。

■新規事業撤退を判断するための5つの基準

—新規事業の撤退を考える上で最も大切な判断基準について、主な判断材料となる基準を5つ解説します。

■まとめ

目次

「新規事業撤退」の意味とは?

「事業撤退」とは、市場において優位性を失ってしまった事業を停止することを意味します。冒頭でも述べたように、新規事業立ち上げの際には、念入りなリサーチやマーケティングを行い、成功が見込めた場合のみゴーサインが出ることになるかと思います。

しかし、どれだけ入念な準備を行ったとしても、100%失敗しないということを断言することはできません。ときには、想像もできなかったようなハプニングが起こり、会社に大きな損害を与えるかもしれません。もちろん、ビジネスには常に良い時も悪い時もあるので、そのようなリスクは誰しもある程度は想定していることでしょう。

ただし、その損害が会社の経営に影響を及ぼすほどの大きいものであった場合、そのままその新規事業を存続させるべきかどうか、真剣に検討する必要があります。状況によっては、むしろその事業から撤退してしまった方が得策という場合も往々にしてあるのです。一度傾いてしまった舟を再び軌道に戻すというのは決して容易なことではないのです。

したがって、経営者としてはこれ以上影響が大きくなる前に、新規事業から手を引くのか、それとも事業を続けるのか、重要な経営判断を迫られることになるのです。

新規事業を撤退する5つの主な理由

せっかく立ち上げた新規事業からの撤退には大きな決断が必要ですし、様々な背景があるからこそ行われます。ここでは、新規事業を撤退する主な理由を5つご紹介します。

費用対効果が見込めない

一つ目の理由は、費用対効果が見込めない、いわゆるコストパフォーマンスが悪いことを理由に撤退するケースです。事業における実際の業務量が予想よりも膨大であったり、事業期間が長期に及んだりすると、費用対効果が見込めず、事業撤退に追い込まれかねないのです。

巨額赤字・負債

二つ目の理由は、巨額の赤字や負債です。上の費用対効果の話にもつながる話ですが、立ち上げた新規事業が巨額な赤字や負債を出し続けてしまえば、収益が見込めず、その場合はもちろん事業の撤退を余儀なくされるでしょう。

たとえば、ユニクロの主要株主であり日本の大手企業の一つであるファーストリテイリングは、2002年に「SKIP」というブランド名で農作物、健康食品など非衣料品分野の販売に進出しましたが、黒字化の目処が立たず、事業撤退をすることになりました。2004年8月期には28億円もの特別損失を計上することにもなりました。どれだけ資金を投入したとしても、ここまでの損失を出してしまう場合には事業撤退に踏み切るという良い例でしょう。

競合他社の存在

同業種の競合他社の成長により、自社の事業が衰退してしまうケースもあります。

例えば、三菱電機はかつて日本の携帯電話市場のトップにいましたが、2000年代以降はシャープやパナソニックなどが台頭し始め、2007年度の出荷台数ではシャープが25%のシェアに対して、三菱電機は5%未満のシェアで10位以下という結果になりました。実際に、三菱電機は2008年に携帯電話事業からの撤退を発表しました。

社会情勢

バブル崩壊やリーマンショックなど、社会情勢による不景気の影響などを受けて事業撤退に追い込まれる場合もあります。近年のコロナウイルスの感染拡大も、このような社会情勢の変化に該当し、見方によってはチャンスにもなり得ますが、多くの企業にとっては新規事業を立ち上げにくい状況といえるでしょう。

たとえば、日立グループはリーマンショックの影響により、プラズマディスプレー工場を売却し、国内薄型テレビの生産と携帯電話、パソコン用HDDから撤退することになりました。

マーケティングの失敗

自社のマーケティング力が乏しいせいで、サービスや製品が衰退してしまうケースもあります。特に有名なのが1985年に起きた「コーラ戦争」です。

コーラといえば、コカ・コーラとペプシを連想する方がほとんどかと思いますが、この二大コーラ企業は、当時から自社PRなどを互いに積極的に行いしのぎを削っていました。ペプシは「コカ・コーラはもう古い、これからはペプシの時代」と言わんばかりの宣伝活動を積極的に行い、若者を中心に支持を集めものすごい勢いで伸びていきました。

これに焦ったコカ・コーラは、1985年に「ニュー・コーク」なるものを発売し、100年以上続く伝統的な味を変える決断を下しました。しかし、問題だったのは新旧の味を併売せずに、すべてを新しい味に取り替えて発売してしまったことです。結果として、従来のファンからの抗議が殺到し、わずか3ヶ月で終焉を迎えることとなりました。つまり、自社で始めた新規事業を自社自ら潰してしまったというわけです。これは歴史上最大のマーケティング失敗例と言われています。

新規事業撤退を判断するための5つの基準

次に新規事業撤退を判断するための基準を5つご紹介します。すでに述べたように、明確な撤退基準を定めておくことは、新規事業を立ち上げる上で非常に大切なことなので、ぜひここでご紹介する代表的なものを参考にしていただければと思います。

KPI(重要業績成果指標)とKGI(重要目標達成指標)による判断

KPI・KGIとは、事業の進捗状況や目標達成度合いを定量的に評価する指標です。たとえば、一年で1万2000人の新規顧客を獲得するというKGIがあった場合は、単純に計算すれば1ヶ月に1000人の新規顧客を獲得することがKPIとなります。

実際はもっと複雑な数値になることが多く状況にもよりますが、このKPIを見ていけば、このまま進めても目標達成はできないということを数値で判断可能なので、非常に合理的なジャッジを行うことができます。

ただし、KGIはあくまで事業の一部の目標を数値化したものなので、KGIは達成しているけど会社的には赤字の場合や、KGIは達成できていないが会社の売り上げは黒字、ということも起こりうるので注意しなければなりません。

PL(投資回収計画)による判断

会計上の数値を用いて新規事業を判断する方法もあります。事業は黒字化を目指すことが基本的な目標となりますので、たとえば一年以内に黒字化ができなければ、その事業から撤退するなどが判断基準となります。

ただし、単純な損益計算だけでは初期投資などがカバーされないなど、見逃しやすい点もあるので、そのような点もしっかりと頭に入れた上で判断しましょう。

市場の状況を見て判断

上でご紹介したKPIやPLによる撤退基準は、たしかに明確な数値を用いるので一見合理的な判断のようにも思えますが、同時に将来のチャンスを逃してしまう可能性があるのも事実です。そのようなことがないようにするためにも、市場の状況を見て判断することも一つの有効な手段です。

市場を見る上で大事なのは二点です。一つは、その市場に将来性があるかどうかです。仮に今非常に小さい市場でも、将来大きく成長する見込みがあるのであれば、早い段階で撤退してしまうのは勿体ないということもあるかもしれません。

二点目はその市場におけるシェアです。こちらもシェア拡大の見込みがあるのであれば、たとえ困難な状況が続いているとしても、一概に撤退するべきと考えるべきではないかもしれません。

もし上記二点が見込めないのであれば、それはシンプルに撤退すべき状況だといえるでしょう。

競合他社を見て判断

社外に目を向けてみることも有効な手段です。社内の状況にだけでなく、競合に目を向けてみると、相対的な力関係によって撤退を判断することもできるでしょう。

競合に対して自社がどれほどの優位性を持っていたいのかによっても撤退基準は変わってくるでしょう。マーケットシェア理論によれば、市場で26.1%以上のシェアを誇っていると、その市場における「強者」と見なすことができると定義されています。

競合を見た上で自社の目指すべき立ち位置を、数値などを使い明確にしておくことで、撤退基準もより明確にすることができます。

自社のリソースによる判断

新規事業における自社のリソースを見て判断するのも一つの方法です。新規事業の規模が会社の実際のキャパシティーを超えてしまうようなことがあれば、その事業はどこかで破綻してしまうのが目に見えています。

そして、会社や従業員のモチベーションも重要な判断材料です。新規事業を立ち上げた上で何を目指すのか、あくまで新規事業を立ち上げることが目的ではないということを意識し、事業へのモチベーションを維持し続けなければなりません。もしそこに熱意がないようであれば、もはやその事業を続ける意味はないでしょう。

まとめ

本記事では、新規事業撤退を決断する理由、そして何を基準に撤退を判断するべきなのか、という話を中心に解説しました。もちろん、成功を目指してこその新規事業ではありますが、すべての新規事業が成功するわけではないからこそ、事前に事業撤退について考えておくことが大切です。

成功している経営者こそ、スタートと同じようにストップの決断の重要性も認識しているものです。ぜひみなさんもこの記事をきっかけに、立ち上げについてだけではなく撤退についても今一度考えてみてはいかがでしょうか。

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